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「ポスト東芝」の原子力はどうなる? 橘川武郎東京理科大学大学院教授に聞く

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橘川武郎東京理科大学大学院教授

米国の原子力発電子会社ウェスチングハウス(WH)を売却し、原発事業から事実上の撤退を決断した東芝<6502>。同社の原発ビジネスは点検や廃炉、タービン発電機などの一部機器の生産に縮小する。東芝が推進してきた設計から建設までを一括で引き受ける「インフラ輸出モデル」からは手を引き、日本政府が進めている国策としての「原発輸出」にブレーキがかかりそうだ。しかし、苦境に陥っているのは東芝だけではない。「原発ばなれ」は先進国でみられる現象だ。

東芝なきあとの原子力ビジネスは、どうなるのか? 橘川武郎東京理科大学大学院教授に聞いた。

先進国の原子力ビジネスには逆風が続く

-国内企業では最も原発ビジネスに前のめりだった東芝がWH社を売却し、事実上の撤退をしました。

先進国はどこも原発ビジネスには厳しい環境になっている。東芝はご存知の通りの有様だし、日立製作所<6501>や三菱重工業<7011>も原子力事業は赤字。仏原子力大手のアレバは経営危機に陥り、2017年12月に仏電力大手EDFや三菱重工業などが増資による救済をした。日本はもとより、英国やフランス、フィンランドなどで原発規制が強化され、新設は難しい。

最大の難点は規制強化による建設コストの増大だ。英国では原発1基新設するのに2兆円かかる。再生可能エネルギーではないが、コストがかかりすぎて他の電力よりも高値で買い取る原子力固定価格買取制度(FIT)を導入しなければペイしない状況だ。

-なぜそんな高いコストがかかるのですか?

日本では地震と津波対策、欧州ではテロ対策にコストがかかる。欧州には旅客機がハイジャックされて原発に突入するのを防ぐため、地対空迎撃ミサイルの配備を検討している国もあるという。乗客が犠牲になってもハイジャック機を撃墜して原発が破壊されるのを防ごうというわけだ。

建設中の原発
先進国での原発新設は難しくなった(Photo By IAEA Imagebank)

危険性の低い新型炉を活用しながら原子力依存度を下げるべき

-新設はでなく、既設の原発ならどうでしょう?

既設の原発であれば発電コストは安い。関西電力が高浜原発や大飯原発を再稼働したところ、発電コストが下がって電力料金を値下げできた。再稼働の問題は老朽化した原発だ。国内には40基の原発が存在するが、うち18基の加圧水型原子炉(PWR)はすべて古い。当然、新しい方が危険性は低いが、福島第一原子力発電所事故以前からそうした古い原発のリプレース(更新)を怠ってきた原子力行政のツケが回ってきた。

福島原発の事故以降も、原子力エネルギー政策は変わっていない。ただ、残る22基の沸騰水型原子炉(BWR)の中には改良型沸騰水型原子炉(ABWR)が4基あり、それらは新しく危険性も低いので、優先的に再稼働させるべきかもしれない。

-既存の原発だけが頼りとなると、新設は厳しいですね。

中国やインド、ロシアなどの新興国では原発建設が急ピッチで進んでいる。日本では政治家と官僚が原発事故を起こした東京電力<9501>を悪者にして叩く側に回っており、原子力エネルギー政策の長期戦略を立てず、司令塔も存在しない。最新型の原発であれば危険性も低く、安定電源になりうるが、日本政府はそのような議論を避けている。

もちろん、その場合にも、古い原発はどんどんたたみ、原子力依存度自体は下げるべきだ。さらに中東など、これから電力需要が急増する国は原子力発電に高い関心を寄せている。先進国が原発ビジネスから完全に撤退すれば、こうした国で中国やロシアの影響力が増す。安全保障上も問題がある。

-国に原子力エネルギー戦略がないのなら、原発の新設は望み薄では…。

2050年時点で新型原発があれば、電力会社にとっては安く安定的に電力を供給するコアコンピタンス(競争上の優位を確保する中心的要因)になるかもしれない。国にやる気がないのなら、電力会社が自主的に取り組むという方法もありうる。電力会社は原発を国策でやるものと考えているから、JR東海のように自社でリスクを取ってリニア新幹線を建設するといった冒険ができない。現在の国内電力会社には、かつて関西電力<9503>が電力の安定供給のために黒四ダム(黒部川第四発電所)を自力で建設したような気概が存在しない。

黒部ダム
電力会社は黒四発電所を自力建設した時の気概を持て!

聞き手・文:M&A Online編集部 糸永正行編集委員

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再生可能エネルギー普及の「カギ」は? 橘川武郎東京理科大学大学院教授に聞く

橘川 武郎

1951年生まれ。75年東京大学経済学部卒業。83年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。同年青山学院大学経営学部専任講師、87年同大学助教授。その間ハーバード大学ビジネススクール 客員研究員などを務める。93年東京大学社会科学研究所助教授。96年同大学教授。2007年一橋大学大学院商学研究科教授。15年東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。20年より現職。

著書は『日本電力業発展のダイナミズム』(名古屋大学出版会)、『原子力発電をどうするか』(名古屋大学出版会)、『東京電力 失敗の本質』(東洋経済新報社)、『電力改革』(講談社新書)、『出光佐三―黄金の奴隷たるなかれ』(ミネルヴァ書房)、『出光興産の自己革新』 (一橋大学日本企業研究センター研究叢書)、『資源小国のエネルギー産業』(芙蓉書房出版)、『石油産業の真実―大再編時代、何が起こるのか―』 (石油通信社新書)、『ゼロからわかる日本経営史』(日本経済新聞出版)、『イノベーションの歴史』(有斐閣)など。電力会社10社中7社の社史を執筆ないし監修。

総合資源エネルギー調査会委員。経営史学会前会長。


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