M&Aには買収、吸収合併会社分割など様々な形態がある。M&Aのメリットは、自社にない経営資源(ヒト・カネ・モノ・情報)を短期的に補完できる、規模の経済による売上拡大やシナジー効果を図れることである。一方、デメリットは、買収価額に見合った事業効果が得られない、企業文化の融合が進まないといったものがある。実際に、M&Aに失敗している企業も存在する。

 今回は、企業の内部成長の補足手段としてM&Aを活用し事業拡大してきた経験と成功の秘訣について、福利厚生のアウトソーシングを主力事業とする東証2部上場企業、ベネフィット・ワン<2412>の白石 徳生社長に話を聞いた。

1.国内・海外合わせて10社以上のM&Aを経験

−−今までどのようなM&Aを行ってきましたか。

 平成8年の創業以来、弊社では、買収や吸収合併だけでなく事業譲受や資本提携など、国内・海外合わせて10社以上のM&Aを行ってきました。具体的には、平成16年のセンダントジャパンからの会員制ショッピング事業の営業譲受、平成19年の海外開発センターからのグルメに関する会員事業及び標章事業の譲受、平成24年のヘルスケア事業の競争力強化のための保健教育センターの買収、平成26年のデータヘルス関連市場拡大のためのデータホライゾンとの資本業務提携、平成28年のアジア地域における事業強化のためのREWARDZ PRIVATE LIMITEDの子会社化といったものがあります。 

〇ベネフィット・ワンの主なM&A

スキーム対象企業事業内容
2004年事業譲受センダントジャパン会員制ショッピング事業
2007年事業譲受海外開発センターグルメに関する会員事業及び標章事業
2012年株式譲受保健教育センターヘルスケア事業
2014年資本業務提携データホライゾンデータヘルス関連
2016年子会社化REWARDZ PRIVATE LIMITED福利厚生事業(シンガポール)

−−御社のヘルスケア事業はM&Aにより拡大してきたのですね。

 ヘルスケア事業は主力である福利厚生事業とも親和性が高く、弊社としても健康関連分野には早い時期から力を入れてきました。
 まず、平成17年にグローバルヘルスケアと資本提携し、翌年同社を完全子会社化した後、平成21年に吸収合併しました。次に、平成24年5月に保健教育センターを買収した後、本体のヘルスケア事業を吸収分割し同社へ承継しました。そして同年7月にはベネフィットワン・ヘルスケアへと商号変更し、順調に事業を拡大しています。

−−保健教育センターを買収した決め手は。

 買収目的は、ヘルスケア事業分野での一層の業務効率化を図り、相互補完による事業シナジーを高めて競争力を強化することでした。弊社では、平成20年、一般的に「メタボ健診」と言われる国の制度が始まったのを機に、特定健康診査・特定保健指導の事業にも本格参入しました。全国の医療機関とのネットワークを活かした健診事業を得意としていたものの、より収益性の高い保健指導事業のノウハウがなかなか蓄積できていませんでした。
 一方、保健教育センターでは、大手団体に対して特定保健指導事業を中心に展開し、医療費抑制・ 疾病予防・健康増進分野での先駆けたプログラムを開発・実施することで市場シェアを拡大していました。お互いにとって、相手の強みが魅力的だったんですね。

−−実際に、どのようにM&Aは進められたのですか。

 実は、もともと取引先の金融機関から、保健教育センターの社長がご高齢で、引退を機に事業承継の手段のひとつとしてM&Aを検討されていると聞いていました。ただ、2~3年の間は、市場動向や同社の成長の様子を伺っていましたね。その後、双方納得のいく買収価額の折り合いが付き、機が熟したところでM&Aを行いました。今では福利厚生事業やインセンティブ事業に次ぐ主力事業として、弊社の成長に大きく貢献しています。

 −−海外では、シンガポールを中心に福利厚生事業などを営むREWARDZ PRIVATE LIMITED(リワーズ)を子会社化されていますね。 リワーズの場合は、海外展開するうえで、会社を買うというよりも同社の経営陣をグループの一員に迎え入れたいという思いからM&Aを行いました。実際、100%子会社というわけではなく、現在でも経営陣は株式を所有しており、一定の裁量権も持っています。また彼らは、シンガポールだけではマーケットが小さいということで、マレーシアやアラブ首長国連邦、インドなどの国外にも経営を広げています。将来的には、彼らにグローバルマネジメントの中核を担ってほしいという思いがありますね。

−−御社が経験してきたM&Aには、どのようなパターンがあるのでしょうか。

 会社を譲渡する側の立場になって考えた場合、その狙いは次の三つに大きく分けられます。一つ目は、譲渡する側の後継者が不在で、経営者がリタイアを考えている時の事業承継としての手段。二つ目は、競争が激しい業界の中で生き残るために、規模の経済を発揮するための手段。三つ目は、自社の事業をより大きく育てるために、自身の所有比率を下げてでも大きな会社と組んでマーケットを獲得していくための手段です。

 一方、会社を買収する側から考えた場合の目的も大きく分けると三つあります。一つ目は、譲渡する側の場合と同じになりますが、競争が激しい中で市場シェアを確保するために同業他社を買収し、規模の経済を発揮するための手段。二つ目は、自社にないファンクションを素早く手に入れるために、時間を買うという手段。三つ目は、優秀な経営陣のマネジメント力を自社の経営に活かすための手段です。特に三つ目について、「経営陣のマネジメント方法がおもしろい、この人たちの価値観や文化を社内にも取り入れたい」と感じた場合は、異業種とのM&Aもあると思います。

−−M&Aを行ううえで大切にしているポイントは何でしょうか。

 買収する側の会社として重要なのは、相手がなぜ会社を譲渡しようとしているのかを、相手の目線で考えることです。買収する会社の目線で「この会社を買ったら自分たちはどうなるのか」と考えるよりも、譲渡する会社の目線で「この会社に買われたらどんなメリットがあるのだろうか」を想像することが大事です。相手側から見てメリットがない場合は、M&Aは難しいでしょうね。それはM&Aによって事業拡大するかどうかだけでなく、相手企業の役員や従業員もハッピーになれるかどうかを含めてです。

 あとは、信頼関係を築いたうえで、お互いが腹を割って話し合うことです。お互いに納得せずにそのまま話を進めても、M&Aはうまくいかないですからね。成功するM&Aは、譲渡する会社にとっても「この会社と一緒になったら、我々の事業は成長できる」と想像できるパターンだと思います。譲渡する側と買収する側が同じ方向に意識が向いていることが大切ですね。