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行動経済学的観点からみた「M&Aと株価」(上)東工大・井上光太郎教授インタビュー

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東京工業大学・工学院・経営工学系・井上光太郎教授

 株式市場の評価という視点から、1990年~2006年のM&Aのケーススタディと実証分析で検証した『M&Aと株価』(東洋経済新報社刊)の著者である東京工業大学工学院の井上光太郎教授に、M&Aが株式市場に与えるインパクトと同書出版後の研究結果について話を聞いた。

1.日本の株価市場の特徴

--M&Aが株式市場に与えるインパクトで、「日本ならでは」という特徴があれば、お聞かせください。

井上教授:2000年代半ばまでは、まだM&A市場が発達していませんでした。全くの第3者によるM&Aは稀で、ほとんどがグループ企業間で行われていたため、支配プレミアムも小さく、株価へのインパクトも他国に比べ限られていました。

 しかしここ10年位は、アメリカやヨーロッパ各国の市場と比べてもほとんど差はありません。支配プレミアムは約40-50%でほぼ一緒、買い手企業側も上がり下がりがない点で他国と同じです。これは、M&Aの競争市場化を意味するもので、基本的に予測される結果です。

株式非公開化取引における株主保護制度の効果に関する国際比較研究(JSDAキャピタルマーケットフォーラムより)

 M&Aを実行しただけなら、買い手にとって価値はありません。大事なのはその後です。しかし、ターゲット側の株主は大きなベネフィットを得るので、M&Aされることに対するインセンティブが強く働くようになっています。これはよいことで、株主の側から見るとM&Aされることを歓迎し、安定株主や機関投資家にとっても株価上昇という形で利益を享受できる。これが国内産業の再編を後押しする仕組みです。

 また、企業がM&Aを行う目的も変わってきています。多くの産業において、再編という点では十分ではないものの、より海外へとシフトしている点は外国と異なります。体力があれば海外へ行く。だからクロスボーダー比率が徐々に上がってきています。

 加えて、日本特有といえるのが、海外から国内への大きな買収がほとんどないこと。つまり、日本企業は海外との交渉にほとんど慣れていません。クロスボーダーをやっても失敗する確率が高いのは、自分が「買われる」立場にないので、逆に「買う」立場としても経験が乏しいからです。その点ではまだM&A市場のボーダーレス化競争が進んでいないといえます。

--そのような日本企業の特性は、日本人の気質や性格も反映しているのでしょうか。

井上教授:世界的に見て、楽観的で、またリスク回避的でない経営者の方がM&Aを積極的に実施している傾向が見られます。一方で、私が関わっているサーベイ(調査)からは、日本の経営者側が「リスク回避的」かつ「楽観度が低い」という特性が浮かび上がっています。日本企業でM&Aを行うのが特定企業が集中し、偏りがみられるのはそれが影響しているのかもしれません。

 日本の場合、安定株主が多いなどの理由で市場のプレッシャーを受けにくいため、放っておくと経営者は何も行動に出ません。あえてリスクをとり苦労を抱え込むよりは、じっとしている方がいいと考えるからです。これを経済学では、「平穏な生活追求仮説」(Quiet Life Hypothesis)と呼びます。その結果、均衡が生まれ、産業再編が進まない。したがって国内市場における競争が激しく、利益率が低く、キャッシュフローを稼げない。だから海外へ出ていく力がないという構造になっています。

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