激動のエネルギー業界とM&A(電力業界編・後編)電力業界のM&Aはあるか?
電力再編を考えた時「注目すべきはドイツ。電力自由化の際には、もともと8社あった電力会社が4社になった。ドイツで4社に減ったのだから、日本でも10社が6社になってもぜんぜんおかしくない」(東京理科大・橘川武郎教授)。
東京理科大でエネルギー産業論の教鞭を執り、M&A Onlineでもすでに石油・電力業界の再編について語ってきた橘川教授は、電力再編によって生まれるかもしれない巨大なインパクトについてそう指摘する。大波のように押し寄せるかもしれないこの電力再編の激流を読み解くカギについて、橘川教授からさらに伺った。
「電力再編へのエンジン」は原子力と石炭のポートフォリオの調整だ
橘川教授によれば、電力会社の再編をもたらす駆動力は、2011年の東日本大震災以降に顕在化した「原子力発電を巡るポートフォリオの見直し」にあるという。国内にある原子炉は建設中のものも含めると44基だ。東日本はBWRと呼ばれる沸騰水型(東芝・日立製)が多く、西日本はPWRと呼ばれる加圧水型(三菱重工製)が大半だ。
「原子力は既設の原発は低コストだが止まる恐れがある、原発はいつ止まるかわからずその点では不安定な電源で特に関西電力(関電)は依存度が高い。一方、再稼働の許可は7基分とっており、6基程度が動き出すかもしれず、そうすればキャッシュが回り出すとみている。」(橘川教授)
表1:電力会社の原子力依存度と国内原子炉の稼働状況
電力会社 | 売上高 | 営業利益 | 3・11以前の原発依存度 | 現有の原子炉 | 稼働中 | 審査合格 | 再稼働状況 |
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北海道電力<9509> | 7241億円 | 431億円 | 高 | 3基 | - | - | |
東北電力<9506> | 2兆955億円 | 1897億円 | 中 | 4基 | - | - | |
東京電力<9501> | 6兆699億円 | 3722億円 | 中 | 11基 | - | - | |
中部電力<9502> | 2兆8540億円 | 2849億円 | 低 | 3基 | - | - | |
北陸電力<9505> | 5445億円 | 381億円 | 中 | 2基 | - | - | |
関西電力<9503> | 3兆2459億円 | 2567億円 | 高 | 9基 | 2基 | 5基 | 高浜3、4号機が稼動中。高浜1,2と美浜3号機、大飯3、4号機が審査合格 |
中国電力<9504> | 1兆2315億円 | 500億円 | 低 | 1基 | - | - | |
四国電力<9507> | 6540億円 | 247億円 | 高 | 2基 | 1基 | - | 伊方3号機が稼動中 |
九州電力<9508> | 1兆8356億円 | 1202億円 | 高 | 5基 | 2基 | 2基 | 川内1、2号機が稼動中。玄海3、4号機が審査合格 |
(注)このほか、日本原子力発電の原子炉が2基存在する。
・売上高・営業利益は各社有価証券報告書より
・合格審査および再稼動状況は「一般社団法人原子力安全推進協会」より(2017年5月現在)
出典:最近1年間の運転実績、原子力施設新規制基準適合性審査状況
「3.11で値上げしなくて済んだのは、中国電力と北陸電力で、両社とも石炭発電に強かったために、原発を止めても値上げをしなくて済んだ」(橘川教授)との石炭火力に強いという両社の特徴を指摘した上で、「関電の社長であれば、ポートフォリオを落ち着かせるために石炭火力発電に強い会社を取りに行く。つまり、値上げしないで済んだ中国電力や北陸電力のM&Aを考えるのが常識ではないか」と同教授は話す。
しかし、事はそう単純ではなさそうだ。というのも、中国・北陸電力にもそれぞれの事情があるからだ。
橘川教授によれば「北陸電力の歴史は関電に飲み込まれないための歴史だった。関電からいかに独立を守るかという歴史だったので、いざとなれば中部電力をホワイトナイトにして逃げる」可能性も十分にあり、関電と北陸電力が合併するシナリオには障害がありそうだ。
他方で、中国電力の事情はもう少し複雑で「CO2対策として2030年までに排出量を0.37kg/kwhにする目標を持っているが、石炭火力発電のウェートが高いので、達成にはハードルがある。そこで原発の強い会社と合併するのが一つの方向で、中国電力からも、どこかと一緒になるエンジンがかかる」と橘川教授は話す。
つまり、電力各社の電源ポートフォリオの見直しの必要性から、自然に「市場メカニズムを通じた電力再編」が西日本で巻き起こる公算も高いことになる。