2017年のM&A戦線に異状はあったのか。“アラカルト10選”と題し、編集部がこの1年間のM&Aを振り返り、話題や出来事をピックアップした。

兄弟の息が合わず

「森永製菓・乳業 統合へ」(日本経済新聞2月24日付)との報道から、ひと月もしないうちに幻となったのが森永製菓<2201>と森永乳業<2264>の経営統合。3月30日、両社は選択肢の一つとしてきた統合に関し、「現時点での検討を終了する」と発表した。

 両社はその名のとおり兄弟会社で、森永製菓が森永乳業の筆頭株主(10.54%)。森永製菓の前身は森永太一郎が明治32年(1899年)、東京・赤坂に創設した日本初の洋菓子専門工場にさかのぼる。「協業は引き続き検討する」(両社)としているが、統合話が再燃するには経済環境の激変などの諸条件が必要になりそうだ。

 同業のライバル、明治製菓、明治乳業は2009年、経営統合して総合菓子・乳業最大手、明治ホールディングス(HD)<2269>を発足させている。

高い買い物に

日本郵政本社(東京都千代田区)

 日本郵政<6178>は2017年3月期決算で約4000億円の巨額損失を計上し、2007年の郵政民営化後初めての赤字に陥った。この原因は2年前の2017年、約6200億円で買収し日本郵便の子会社とした豪州の物流大手トール・ホールディングスの業績不振。ブランド価値の見直しに伴うのれんの一括減損処理を迫られたのだ。国内郵便事業の成長が見込めない中、国際物流に活路を見出だそうとの戦略だが、いきなりつまづいた格好で、高値づかみの集中砲火を浴びた。

 その後、日本郵政による野村不動産ホールディングス<3231>の買収検討が表面化したが、結局、こちらは「白紙」となり、ドタバタ劇を演じてしまった。


10日でご破算に

太平洋をまたぐ大型買収ならず…

 日本ペイントホールディングス<4621>が米塗料大手、アクサルタ・コーティング・システムズ(本社フィラデルフィア)に買収提案したことを公表したのは11月22日。1兆円規模での買収を提案し、本格協議に入ったのもつかの間、12月1日には交渉の中止を発表した。実現すれば、日本企業による今年最大のM&Aだっただけに、日本ペイントにとって市場の失望も誘う痛恨事となってしまった。 

 ただ、同社の直近売上高が6050億円(2017年12月期予想)に対し、買収提案金額は約1.7倍に相当し、身の丈を超えるM&Aだったとの見方も。

 世界の塗料業界はオランダのアクゾ・ノーベル、米PPG、米シャーウィン・ウイリアムズが3強とされる。日本ペイントはこれに次ぐ第2グループに位置する。同社は「今後も積極的にM&A・戦略提携を進める」とするコメントを発表した。

またもや中国パワー

自動車の運転席

 不具合エアバッグの大規模リコール(無料の回収・修理)問題で業績不振に陥っていたタカタが6月、1兆円超の負債を抱えて行き詰まった。製造業として戦後最大規模の経営破たんとなった。このスポンサー企業として名乗りを上げたのが中国・寧波均勝電子傘下の米国自動車部品大手、キー・セイフティー・システムズ(KSS)。タカタは11月、事業の大部分を約1780億円でKSSに譲渡することで最終合意した。スポンサー候補として応札した複数のグループには日本勢も含まれるが、競合相手を制してタカタを事実上、手中に収めたのは中国系企業だった。 

 2010年にレナウン、本間ゴルフ、自動車用金型の世界的メーカー・オギハラが相次いで中国企業の傘下入り。2011年には海爾集団(ハイアール)が三洋電機の白物家電事業を買収。最近では今年11月、東芝がテレビ事業を海信集団(ハイセンス)に売却することを発表したばかり。

バスケ、病院も……

東芝病院(東京都品川区)

 経営再建中の東芝<6502>は12月、プロバスケットボール男子Bリーグ所属「川崎ブレイブサンダース」を運営権をディー・エヌ・エー(DeNA)に譲渡することを決めた。さらに東芝病院(東京都品川区。308床)についても医療法人社団緑野会(神奈川県大和市)に譲渡し、2018年3月までに運営を移管することになった。

 ブレイブサンダースは1950年に川崎市を拠点に創設。天皇杯優勝3回、国内トップリーグ優勝4回を達成し、Bリーグが開幕した2016~2017年は準優勝した強豪。ラクビー部、野球部は引き続き企業スポーツとして継続する。

 東芝は昨年、医療機器事業をキヤノン<7751>に約6655億円で売却したのに続き、今年は半導体メモリー事業を約2兆円で日米韓連合に売却を決定。これらと売却額は比べるべくものないが、本業と関連性が薄い事業についての見直しを進めてきた。

M&Aを“解禁”

りそなHD本社(東京都江東区)

 りそなホールディングス(HD)<8308>にとって2017年はM&Aの封印を解く1年となった。りそなHDは2003年に公的資金の注入を受け、経営再建を優先してきたが、2015年に完済。経営のフリーハンドを得たことから、かねて投資の機会をうかがっていた。

 1月にまず、シンガポールの金融機関「AFCマーチャントバンク」の買収を発表。東南アジアに進出する中堅・中小企業への融資やM&Aの助言業務などに力を入れる。

 そして9月、りそなHD傘下の近畿大阪銀行と三井住友フィナンシャルグループ<8316>傘下のみなと銀行<8543>、関西アーバン銀行<8545>の関西3地銀が経営統合し、持ち株会社「関西みらいフィナンシャルグループ」を設立することを発表。この統合に向けて、りそなHDはみなと銀行、関西アーバン銀行に対するTOB株式公開買い付け)を12月27日開始した。

今年も主役を譲らず

主役を譲らずーソフトバンクグループ
Photo by MIKI Yoshihito

 国境を越えたクロスボーダー型M&A市場で旋風を巻き起こした日本企業といえば、やはり孫正義代表が率いるソフトバンクグループ<9984>。2016年は英半導体設計のアーム・ホールディングスを3兆3000億円で買収する超大型投資で度肝を抜いたが、今年も主役の座は譲らなかった。

 2月、米投資会社のフォートレス・インベストメント・グループを3752億円で買収。4月には、中国の配車大手、滴滴出行(ディディ・チューシン)が巨額資金を調達する際、その約9割の5650億円を出資した。滴滴は2012年創業で、米国の同業ウーバー・テクノロジーズの中国事業を買収し、タクシー配車とライドシェア(相乗り)サービスで中国トップ。11月には本家の米ウーバーへの出資検討が報じられた。8月には米オフィスシェア大手のウィーワークに3300億円の追加出資を決めるなど、大型投資が途切れることがない。ちなみに、ソフトバンクグループの2017年9月末の有利子負債は15兆6000億円で、手元の現金は約3兆円4600億円。

ベイン旋風が吹く

資本市場の総本山・東京証券取引所(東京都中央区)

 国内M&A市場で台風の目となったのは米ファンドのベインキャピタル。東芝が半導体メモリー事業を2兆円で売却する受け皿の日米韓連合で主軸(約2120億円拠出)を務めたのは記憶に新しい。

 そのベインキャピタルが新たな投資対象に選んだのが業界3位の広告会社、アサツーディ・ケイ(ADK)<9747>TOBで87%の株式を約1326億円で取得し12月に子会社化した。ADKの筆頭株主で資本・業務提携先の英広告大手WPPは買付価格が割安だとして反対を表明し、TOB期限が延期となる一幕もあったが、最終的に同意した。ADKの企業価値を高めたうえで、再上場させる考え。

 ベインキャピタルは総額750億ドル(約8兆5000億円)以上を運用する世界最大級の投資会社。日本での投資実績は、すかいらーく<3197>、大江戸温泉ホールディングス、雪国まいたけ<1378>、ベルシステム24<6183>、ドミノ・ピザ・ジャパンなど10数件ある。

もの言う株主、健在なり

今年ヒットした村上世彰氏の著作

 黒田電気<7517>は12月、独立系投資ファンド「MBKパートナーズ」の傘下子会社によるTOBが成立したと発表した。発行済み株式の68%にあたる応募があった。黒田電気の大株主には旧村上ファンド代表の村上世彰氏の親族や同氏が関係するファンドが名を連ね、合計で約4割に達していた。村上氏らは黒田電気と経営方針をめぐって対立していたが、村上氏ら、黒田電気の双方がそれぞれの立場でTOBに賛同。

 11月には三信電気<8150>の株式を村上氏ら関係者が34%まで買い増していることが判明。株主総会拒否権を行使できる3分の1超に達しており、今後の事態の推移に関心が集まる。

 ソレキア<9867>をめぐっては、富士通<6702>とフリージア・マクロス<6343>会長で実業家の佐々木ベジ氏とのTOB攻防戦が繰り広げられ、最終的に敵対的買収側の佐々木氏側が勝利した。奇しくも、黒田電気、三信電気、ソレキアの3社はいずれも電子部品商社。

ケタが違う

 今年も海の向こうから、破格のM&Aニュースが飛び込んできた。11月、米半導体大手のブロードコムが同業大手の米クアルコムに買収提案したと発表した。買収額は負債を含めて1300億ドル(約14兆8000億円)。実現すれば、米インテル、韓国サムスン電子に次ぐ世界3位の売上規模になる。ただ、クアルコム側は買収提案を拒否しており、今後、敵対的なTOBに発展する可能性もある。

 12月には、米娯楽・メディア大手のウォルト・ディズニーが21世紀フォックスから映画・テレビ事業を買収することを発表した。買収額は負債込みで661億ドル(7兆4000億円)。コンテンツ事業を強化して動画配信サービスで台頭するアマゾン・コムなどに対抗する狙いがあるとみられる。21世紀フォックスは、企業買収を重ねて「メディア王」と呼ばれるルパート・マードック氏が会長を務めるが、今回の売却の動きは同氏の戦略転換のシグナルなのだろうか。

ディズニーは21世紀フォックスから映画・テレビ事業を買収
Photo by Marc Levin

文:M&A Online編集部