東京オリンピックに期待 -フィットネス業界のM&A事情

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強豪ぞろいのフィットネス業界のM&A

「24時間テレビ 愛は地球を救う」のマラソンランナーは、ブルゾンちえみさんが見事に務められた。ただし、走者の発表が当日になったことに対しては、日本テレビの内外で物議を醸したようだ。

2020年の東京オリンピックに照準を合わせている業界は多いが、フィットネスクラブ運営のティップネスを買収するという異業種進出を果たした日テレにとっても、スポーツというコンテンツを最大限に活かして局のPRをしていくことは社運をかけた重要課題といえるだろう。

今回は、熱い競争が繰り広げられているフィットネス業界のM&A事情を取り上げてみたい。

日テレHDのティップネス買収。のれん計上額は126億円

ティップネスHPより

2014年12月、日本テレビホールディングス<9404>(以下、日テレHD)は、フィットネスクラブを運営するティップネスの全株式を大株主であるサントリーおよび丸紅から取得した。サントリーおよび丸紅の株式譲渡前の持株比率はそれぞれ71.43%、28.57%であり、日テレHDは両社から合計2,800株を取得した。対価はすべて現金で、取得価額は240億円となった。

日テレHDは事業ポートフォリオの多角化を目指しており、同年4月には、オンライン動画配信サービス「Hulu」を運営するHJホールディングスを買収したところでもあった。ティップネスの取得により、新たに健康関連分野に進出することになり、有価証券報告書のセグメント情報にも「生活・健康関連事業」セグメントが新設されることとなった。

ティップネス買収によるのれん計上額は126億円にのぼり、16年間にわたって均等償却されている。さらに特徴的なのは、のれん以外の無形固定資産への配分額として商標権52億円が計上されているほか、顧客関連資産55億円が計上されている点だ。

商標権は「ティップネス」などのブランド価値を評価したものであり、のれんと同様16年間で償却される。また、顧客関連資産はフィットネスクラブの会員を有している事実などを評価したもので、「会員関係等」として51億円、「受託契約」として4億円が計上され、それぞれ8年、16年で償却されている。

フィットネスクラブ運営においてブランド価値や会員数が重要な経営資産になることは想像に難くないが、それが明確に数字に表れたPPA(Purchase Price Allocation)の好例といえるだろう。

ダンロップスポーツはスポーツ用品メーカーからウェルネス企業へ

ダンロップスポーツHPより

ダンロップスポーツ<7825>は住友ゴム工業傘下の総合スポーツ用品メーカーであり、ゴルフ用品、テニス用品などのイメージが強いが、近年はフィットネスクラブ運営にも注力している。なお、住友ゴム工業は2017年8月にスポーツ事業の統合の一環としてダンロップスポーツとの吸収合併を発表している。本年中にはダンロップスポーツが上場廃止となった上で、2018年1月1日に住友ゴム工業を存在会社とする合併の効力が生じる予定である。

そのダンロップスポーツがウェルネス業界に打って出た端緒は、2014年に相次いだフィットネスクラブの買収といってよい。

まず、2014年10月にキッツウェルネスを42億円で買収し、現在は商号変更してダンロップスポーツウェルネスとなっている。同社の運営する「ダンロップスポーツクラブ」は「ジムスタイル24」などいくつかのタイプのフィットネス施設として展開されており、2017年9月現在17店舗あるジム施設を2020年には50店舗にまで増やす計画中だ。なお、この買収におけるのれんの計上額は24億円、顧客関連資産の計上額は7千9百万円となった。

また、2014年12月にはサッポロスポーツプラザの全株式をサッポロHD傘下のサッポロ不動産開発から取得した。取得価格は開示されていないが、埼玉、千葉、北海道でフィットネス事業、ゴルフスクール、テニススクールを運営してきた地域密着型の経営形態であり、上述のキッツウェルネスより小ぶりな買収といえる。

ダンロップでは2014年度より新たに「ウェルネス事業」というセグメント区分を設け、新規参入したフィットネス事業に加え、従来から存在したゴルフスクール、テニススクールも同区分に集計して開示することにしている。2018年1月以降は住友ゴム工業の「スポーツ事業」セグメントに集約される可能性が高いと考えられる。

野村不動産HD、メガロスをTOB

メガロスHPより

2015年6月、野村不動産ホールディングス<3231>は当時ジャスダックに上場していたメガロスに対してTOBを実施し、94.33%の株式を取得した。メガロスはもともと野村不動産の子会社として1989年に設立されたジム運営会社である。コナミスポーツと業務提携するなどしてフィットネス事業、スクール事業を拡大させ、2007年にはジャスダックに上場していた。

野村不動産は、高齢化の進展や東京オリンピックの開催などを控え、フィットネス事業により注力する方針のもと、首都圏などで29店舗を直営していたメガロスの完全子会社化を決定。TOBの成功により、2015年8月にはジャスダック上場廃止、9月には株式交換によりスクイーズアウトを完了した。

TOB実施前の野村不動産の持分は53.87%であり、TOB価格は直前の終値を23%上回る1株あたり2,000円とされた。TOBにおいてどの程度のプレミアムが付くかという点については、TOBの態様や株式市況にも影響される。なお、近年の総プレミアム平均の推移は41.7%(2010)、51.2%(2011)、45.0%(2012)、31.3%(2013)、 25.4%(2014)、29.2%(2015)、26.36%(2016)と低下傾向にある。

興味のある方は「2017年第2四半期TOBプレミアム分析レポート」(https://maonline.jp/articles/tob0717)なども参照されたい。

フィットネス業界のシェア争い 勝敗の行方は?

各社とも、今後、ますますウェルネス市場が重要になることを確信しての事業進出と考えられるが、フィットネス業界はライバル企業の層が厚いのも事実だ。単純に売上規模で考えても、上位にはコナミ<9766>(健康サービス事業)、セントラルスポーツ<4801>、ルネサンス<2378>、RIZAP<2928>(美容健康関連事業)などの強豪が並ぶ。

いかに付加価値を高め、顧客ロイヤリティを向上させるかが熱いバトルの勝敗を分ける鍵と考えられるが、その際にはM&Aの巧拙も大きなファクターとなるに違いない。

文:M&A Online編集部

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