2021年4月のM&A件数(適時開示ベース)は83件と前年同月(52件)を約6割上回り、3カ月連続で増加した。4月としてはここ10年間で最多を記録した。国内案件が活発だったうえ、海外案件の復調が鮮明になっており、M&A市場ではコロナ禍の影響を払拭した感がある。
取引金額は1兆9263億円に膨らみ、こちらも3カ月連続で1兆円の大台を超えた。前年4月は約350億円と過去最低水準に落ち込んだが、一転して4月として過去最高となった。
全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。
4月のM&Aの総開示件数83件の内訳は買収65件、売却18件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。1~4月の累計は325件で、前年同期を30件上回るハイペースで推移している。
全83件は前月(3月)に比べると11件減。例年、年度末の3月は件数が積み上がるのに対し、4月は年度初めということもあり、件数がさほど伸びない。とくに前年4月(52件)はコロナ感染の第1波が重なり、3月比36件の大幅減に見舞われた。
全83件中、海外案件は28件(買収17件、売却11件)と3分の1を占め、2016年12月(29件)以来およそ4年半ぶりの高水準となった。日本企業がかかわる海外M&Aは昨年の同時期、コロナショックの影響で失速した後、秋口から持ち直していたが、ここへきて“完調”を印象づける形となった。
取引金額は8000億円前後の大型案件が2件あったことから、1兆9263億円と2兆円にあと一歩と迫った(金額上位は一覧表)。2月、3月はいずれも1兆1000億円台で、3カ月連続で1兆円を突破するのは初めて。
最大案件は米投資ファンドのベインキャピタルがTOB(株式公開買い付け)などで日立金属を買収する案件。TOBを通じて日立金属の株式47%を買い付けたうえで、親会社の日立製作所が保有する残る53%の株式を取得する。買収総額は約8100億円に上る見通しだ。
TOBは11月下旬に予定される。日立金属をめぐる一連の買収には日本産業パートナーズ(東京都千代田区)、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(同)の国内投資ファンド2社が参画し、日米連合で進められる。
日立金属は1956年に日立の鉄鋼部門が分離独立して発足。日立グループではかつて日立金属、日立電線(日立金属と2013年合併)、日立化成が“御三家”と呼ばれていた。日立はグループ事業の再編を進めており、昨年は日立化成を昭和電工に約9600億円で売却した。
もう一つの超大型案件はパナソニックが約7800億円を投じる米ブルーヨンダーの買収。ブルーヨンダーはサプライチェーン(供給網)用ソフトウエアの有力企業で、株式80%を追加取得し、完全子会社化する。顧客企業の生産性向上などに向けたサプライチェーンマネジメント(SCM)サービスを世界規模で強化する。
TOBをめぐっては波乱含みの様相を呈した。その一つが国内不動産投資信託(REIT)のインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人の非上場化を目的とする案件。米投資ファンドのスターウッド・キャピタル・グループが仕掛けた1600億円超の大型TOBだが、インベスコが反対を表明したことで国内REIT初の敵対的TOBに発展した。
旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)は4月末、日本アジアグループに対して2月に続く2度目のTOBを始めた。前回はTOB開始後に撤回したが、仕切り直しの形となった今回も敵対的TOBの構図になる公算が大きく、成り行きが注目されている。
さらにシンガポール投資会社のアスリード・キャピタルによる富士興産へのTOBも敵対的要素をはらんでおり、富士興産側の賛成か反対かなどの意見表明が待たれている。
◎4月M&A:金額上位案件(10億円以上)
1 | ベインキャピタル(米) | 日米ファンド連合で日立金属を買収 | 8100億円 |
2 | パナソニック | サプライチェーン・ソフトウエア企業の米ブルーヨンダーを子会社化 | 7800億円 |
3 | スターウッド・キャピタル・グループ(米) | 国内不動産投資信託(REIT)のインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人をTOBで非上場化 | 1665億円 |
4 | ノーリツ鋼機 | ワイヤレスイヤホン・ヘッドホン開発の米JLabを子会社化 | 350億円 |
5 | ソニーグループ | ブラジルの独立系音楽会社ソンリブレを買収 | 283億円 |
6 | シティインデックスイレブンス | 日本アジアグループを再TOBで子会社化 | 172億円 |
7 | Jトラスト | リース・割賦事業のJTキャピタル(ソウル)など韓国金融2子会社を現地社に譲渡 | 114億円 |
8 | リログループ | 不動産事業の日商ベックス(東京都渋谷区)を中心とする日商ベックスグループ3社を子会社化 | 86億円 |
9 | アスリード・キャピタル(シンガポール) | 富士興産をTOBで子会社化 | 82.9億円 |
10 | レスターホールディングス | 半導体商社のPALTEKをTOBで子会社化 | 74.4億円 |
11 | リンテック | 米国の粘着製品メーカー、Duramarkを子会社化 | 67.5億円 |
12 | ブリヂストン | 鉱山車両タイヤ保守・管理サービスの豪オトラコ・インターナショナルを子会社化 | 66億円 |
13 | EPSホールディングス | アパレルサプライチェーンマネジメントサービスの香港・尚捷集団控股有限公司を子会社化 | 52.7億円 |
14 | JVCケンウッド | 通信指令・管理システム開発の米子会社Zetronを豪Codanに譲渡 | 49.8億円 |
15 | インターネットイニシアティブ | システムインテグレーション事業のシンガポールPTC SYSTEMを子会社化 | 36.9億円 |
16 | 朝日インテック | イタリアの販売代理店KARDIAを子会社化 | 36.1億円 |
17 | UTグループ | 人材派遣業のプログレスグループ(愛知県岩倉市)を子会社化 | 30.9億円 |
18 | EPSホールディングス | 医薬品・医療機器開発業務受託のCACクロア(東京都中央区)を子会社化 | 30億円 |
19 | 朝日インテック | 医療機器設計開発の米Rev.1 Engineeringを子会社化 | 29.1億円 |
20 | 朝日インテック | センサー付きガイドワイヤー研究開発の米Pathways Medicalを子会社化 | 24.4億円 |
21 | テクノホライゾン | シンガポールのセキュリティー機器・ソフト販売のPACIFIC TECHグループを子会社化 | 24億円 |
22 | くふうカンパニー | 住宅関連コンサルティングのハイアス・アンド・カンパニーをTOBで子会社化 | 17.3億円 |
23 | OBARA GROUP | 平面研磨装置事業の中国子会社SpeedFam Mechatronicsを現地社に譲渡 | 14.2億円 |
文:M&A Online編集部
これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。