2021年M&A市場の行方は? シティグループ証券・中塚健介マネジングディレクターに聞く

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東京・大手町

コロナ禍は収束の兆しが見えない状況にあるが、世界経済は大底を脱し、改善に向けて歩みを強めている。こうした中、日本のM&A市場はどう動くのか。2021年の見どころや今後の潮流などを、シティグループ証券M&A本部マネジングディレクターの中塚健介さんに聞いた。

大型海外案件が次第に戻り、活発な1年に

-新型コロナウイルス感染拡大の収束が世界的に見通せない状況にあります。M&Aに関して海外と日本にトレンドの違いなどはありますか。

中塚健介さん

コロナ禍の中で、海外と日本のトレンドはほぼ同じだ。2020年上期(1~6月)はグローバルでも国内でもM&A市場が冷え込んだ。また、そこからの立ち上がりも、過去のリーマンショック(2008年)、ITバブル崩壊(2000年)の時と比べて、テンポが早く、かつ急激だったのが大きな特徴。下期(7~12月)のM&Aは非常に活発で、2020年は年間を通してみれば、前年比微減に収まった。

年明け以降も前年下期からの増加傾向が続いている。事業会社も投資ファンドも手元資金・待機資金が積み上がっており、2021年のM&A市場は活況が予想される。

ーそうした中、日本企業による海外M&Aの動向はどうでしょう。

コロナ前に比べ、昨年前半は大型のアウトバウンド(日本企業による海外企業買収)案件が減速したが、こちらも下期から流れが変わってきた。コロナの影響で海外との往来がままならない状況の中で、いかにディール(取引)を進めていくかということについて、ノウハウが蓄積されてきたからではないか。そこではコミュニケーション技術の進歩などテクノロジーの力が見逃せない。

実際、3月末に日立製作所が米IT企業を1兆円超で買収するとの発表があったのをはじめ、足元では大型の海外案件も増えつつある。

PEファンドの存在感が一段と高まる

ー2021年の注目セクターは。

特定のセクターというよりも、例えば、働き方という観点。コロナの局面ではリモートワーク(在宅勤務)がクローズアップされたが、コロナを契機に、働き方をめぐる社会変化はさらに加速する流れにある。こうした働き方改革にはテクノロジーが大きくかかわっている。5G(次世代通信規格)なども含めて、テクノロジー周りのところに注目している。もちろん、インダストリアル、ヘルスケアといったセクターでも全般的にM&Aが活発になるとみている。

ー日本のM&A市場で特に目を引く動きはありますか。

一つは、プライベートエクイティ(PE)ファンドの存在感が急速に高まっている点だ。買収案件もさることながら、企業にとっては成長戦略の中で、子会社を含めたノンコア(非中核)事業の切り出し、つまりカーブアウトが重要な検討課題となっており、その際に、売却先としてPEファンドを活用するケースが目立つ。潤沢な待機資金を背景に、PEファンドの出番が一段と増えている。

もう一つは、アクティビストを含めて株主からの要求・提案が活発化していること。その延長線上で昨年来、敵対的買収が増えている。敵対的TOB(株式公開買い付け)は今年すでに3件を数える。

また、(買収合戦の標的になった)島忠のケースでは、DCMホールディングスによる買収で両者が合意を発表しながら、別の第三者のニトリホールディングスが名乗りをあげた。2019年にはユニゾホールディングスを巡って第2、第3の買収候補が現れたが、いずれもファンドが絡んだもので、島忠のケースのように事業会社同士による本格的な対抗的買収は初めて。こうした形のディールが日本でもタブーでなくなってきたといえ、一つのトレンドとして注目している。

可能性を秘める「SPAC」

ー日本でもSPAC(買収目的会社)への関心が高まっています。

最近、米国で上場が相次いでいる状況。SPAC自体は以前からあったが、現在では中身が相当進化し、洗練されてきているようだ。必ずしも一時的なブームではない。上場のための受け皿や仕組みとして機能していくのではないか。

アジアでもシンガポールで早晩スタートすると聞いている。ここへきて日本版SPACの議論も活発になっている。会社のオーナーから見れば、第三者に売却するか、SPACを使って上場するかということであり、M&A的な要素も多分にある。いろいろな意味で可能性を秘めていると思う。

ーM&A業務に関し、シティならではの強みは。

グローバルな金融機関として世界中にネットワークが広がっているのが最大の強み。世界各地のチーム・同僚と日々連携し、情報交換している。とくにクロスボーダー案件に際しては、関係する様々な地域の情報がライブ感をもって入手できるため、日本のお客様に高い評価をいただいている。

シティの日本における歴史は長く、日本のお客様のニーズを理解して、ビジネスのお手伝いをしている。グローバルな組織と日本に根を張ったローカルさを強みとしながら、引き続き、専門性はもちろん、練度の高いサービスを提供していきたい。

◎中塚 健介さん(なかつか・けんすけ)
シティグループ証券 投資銀行統括本部 M&A本部 マネジング ディレクター。2003年大和証券SMBCに入社。2005年~2020年クレディ・スイス証券M&A部に所属し、東京・ロンドンで勤務。マネジングディレクター・M&A部長を務める。2020年7月にシティグループ証券に転じ、現職。慶応義塾大学卒。米ピッツバーグ大学で公共・国際関係学修士号を取得。

※インタビューはリモート取材で行いました。

文・聞き手 M&A Online編集部 黒岡 博明

M&A Online編集部

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