セブン&アイ・ホールディングスが米国3位のコンビニ企業「スピードウェイ」を買収することになった。その額は約2兆2000億円。日本企業による海外企業買収として4位にランクされるビッグディールだ。日本企業が仕掛けた大型M&Aトップ10を振り返ると。
実はセブン&アイのスピードウェイ買収は今年初めに持ちあがっていたが、金額が折り合わず、物別れに終わったと見られていた。それが仕切り直しの末、買収契約にこぎつけた。買収完了は2021年1~3月を見込む。
スピードウェイは米石油精製大手マラソン・ペトロリアム(オハイオ州)の傘下で、ガソリンスタンド併設型コンビニ約3900店舗を持つ。セブン&アイの米子会社「セブンーイレブン」は全米1位の約9800店舗を展開するが、シェアは6%程度。1位と3位の両ブランドがタッグを組み、北米のコンビニ市場で明確に業界リーダーとしての地位を確立するのが狙いだ。
「兆円」台のM&Aはざらにあるわけではない。10件に届くかどうかといったところで、そのすべてが国境をまたぐ海外案件で占める(一覧表を参照)。
断トツは武田薬品工業がアイルランド製薬大手シャイアーを買収した案件。最終的な買収金額は6兆2000億円に上った。買収完了は2019年1月。売上高で世界の医薬品企業トップ10入りを果たした。
武田薬品は2011年にもスイス製薬大手のナイコメッドを約1兆1000億円で傘下に収めており、こちらも9位にランクインする。
全体の2位は2016年、英半導体設計大手の英ARMホールディングスを約3兆3000億円で買収したソフトバンクグループ(SBG)。ARMを巡ってはここへきてSBGが財務改善の一環として売却する可能性が取りざたされている。
それでも「兆円」台のM&Aを3度も経験しているのは傘下のソフトバンクを含めてSBGだけだ。2006年に英ボーダフォン日本法人を約1兆9000億円で買収し、携帯電話事業に新規参入した。2013年には米の携帯4位のスプリント・ネクステルを約1兆8500億円で傘下に収めた。ただ、スプリントは今年4月に同3位のTモバイルと合併し、経営権はSBGから離れた。
◎日本企業による大型買収のトップ10(HDはホールディングスの略)
買手企業 | 対象企業 | 買収金額 | |
1 | 武田薬品工業 | アイルランド・シャイアー | 6兆2000億円 |
2 | ソフトバンクグループ | 英ARMホールディングス | 3兆3000億円 |
3 | 日本たばこ産業 | 英ギャラハー | 2兆2500億円 |
4 | セブン&アイ・HD | 米スピードウェイ | 2兆2000億円 |
5 | ソフトバンク | 英ボーダフォン日本法人 | 1兆9000億円 |
6 | ソフトバンク | 米スプリント・ネクステル | 1兆8000億円 |
7 | サントリーHD | 米ビーム | 1兆6500億円 |
8 | アサヒグループHD | 豪カールトン | 1兆1400億円 |
9 | 武田薬品工業 | スイス・ナイコメッド | 1兆1000億円 |
10 | 昭和電工 | 日立化成 | 約9600億円 |
番外 | 米ベインキャピタル | 東芝メモリ | 2兆円 |
※M&A Online編集部調べ。買収金額は完了ベースを基本とした
3位は日本たばこ産業が約2兆2500億円を投じた英たばこ大手ギャラハーの買収(2007年)。日本たばこは国内市場の縮小に伴い、海外事業を成長の基盤と位置づけ、近年はロシアやフィリピン、インドネシアなど新興国でのM&Aを活発化している。
7位と8位は飲料関連。サントリーホールディングスは2014年にバーボンウイスキー「ジムビーム」で知られる米酒類大手のビームを約1兆6500億円で買収した。
一方、アサヒグループホールディングスは豪ビール大手、カールトン・アンド・ユナイテッド・ブルワリーズの買収を6月に完了したばかり。昨年7月の発表から1年を要し、最終的な買収金額は約1兆1400億円だった。
10位は唯一、日本企業同士。1兆円には届かないものの、昭和電工は総額9600億円強を投じた日立化成の買収を今年4月に完了した。日立化成は今年10月に昭和電工マテリアルズに社名変更する。
番外というべきは東芝の経営再建に絡んで傘下の東芝メモリ(現キオクシア)がターゲットになった案件。米ベインキャピタルが主導して2018年に2兆円で買収(親会社の東芝にとっては売却)したが、これは日本企業の売却案件として過去最大だ。
文:M&A Online編集部
これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。