2020年11月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比5件減の81件となり、4カ月連続で前年を下回った。4カ月連続のマイナスは2015年10月~2016年2月(5カ月)以来となったが、11月単月としては過去10年で最多だった前年に次ぐ高水準。また、月間80件を超えるのは「コロナ禍」初期の3月(88件)以来で、件数面での腰折れ懸念はひとまず払拭した形だ。

取引金額にも復調が見られる。100億円超の大型案件は9件あり、2月(8件)を上回り、今年最も多かった。

件数増をリードした「売却」、月間20件突破

全上場企業に義務付けられた東証適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

11月のM&Aの総開示件数81件の内訳は買収58件、売却23件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外案件は15件(買収8件、売却7件)だった。

1~11月の累計は771件と前年とそん色のない水準にある。コロナ禍の影響拡大で4月以降、国境を超える海外案件にはブレーキがかかったが、国内案件が底堅く推移し、件数を牽引してきた。金額面では小型化の傾向が強まっていた。

こうした状況で迎えた11月に、ことのほか目立ったのが売却案件の伸びだ。売却案件の開示23件は6月の20件を上回る今年最多で、M&Aを通じて不採算事業の撤退や事業縮小などリストラの動きが国内外で加速した。

サノヤスホールディングスは赤字の造船事業から撤退し、造船子会社を新来島どっくに売却することを発表した。百貨店不況に直面する三越伊勢丹ホールディングスは不動産子会社の三越伊勢丹不動産を米大手投資ファンドのブラックストーンに売却を決めた。

キリンホールディングスは豪州での飲料事業を現地企業に約409億円で売却する。同じ豪州では、日本郵政が2015年に約6500億円を投じて傘下に収めた物流子会社トール・ホールディングスの事業のうち、業績不振のエクスプレス(宅配便など)部門について売却検討を発表した。

100億円超の大型M&A、今年最多の9件

11月は金額面でも変化が表れた。取引金額10億円超の「中クラス」のM&A 案件は21件を数え、2月(23件)以来の20件台に戻した。さらに、このうち100億円を超える大型案件も9件と今年最多を記録した。

金額トップは、不動産投資信託(J-REIT)など運用のケネディクスをTOB(株式公開買い付け)で子会社化する三井住友ファイナンス&リースの案件。買付代金は1319億円。ケネディクスの運用資産残高は約2兆5000億円(9月末)。三井住友F&LはJ-REITの有力プレーヤーを取り込み、不動産関連ビジネスの拡大に弾みをつける。

1000億円超はもう1件あり、こちらもTOB絡み。三井不動産は1205億円を投じて東京ドームを子会社化する。東京ドームは都心でプロ野球巨人軍が本拠とする球場、遊園地、ホテルなどを運営する。新規領域のスタジアム・アリーナ事業への本格展開を目指す。

三井不動産による東京ドームの完全子会社後、巨人を傘下に持つ読売新聞グループ本社が三井不から東京ドーム株20%を取得する。東京ドームを巡ってはかねて、社長解任などを要求する香港投資ファンドとの対立があり、三井不と読売が手を差し伸べた格好だ。

読売新聞グループ本社はほかでも存在感を発揮した。よみうりランドをTOBで子会社化することになった。読売は16%余りの株式を保有する筆頭株主。よみうりランドは遊園地や競馬場、ゴルフ場などを展開するが、新型コロナの影響で足元の業績が悪化している。

11月のTOB戦線では「読売」の露出が目立った(写真はよみうりランド、東京都稲城市)

MBOも9年ぶりに2ケタに

ケネディクスの案件をはじめ、子会社化を目的とするTOBは11月中、9件に上った。これには日本アジアグループ(東証1部)、常磐開発(ジャスダック)による2件のMBO(経営陣による買収)が含まれる。

究極の買収防衛策といわれるMBOは今年すでに11件を数え、2011年(21件)以来9年ぶりに2ケタに乗せた。MBOは過去6年、年間5件前後で推移してきた。それが一転、倍増の勢いを見せる背景には、ポストコロナを見据え、目先の株価や業績にとらわれず、中長期的な視点で大胆な経営改革を推し進める狙いが込められているようだ。

◎11月M&A:金額上位(取引金額10億円超)

1 三井住友ファイナンス&リース 不動産投資ファンド運営のケネディクスをTOBで子会社化(1319億円)
2 三井不動産 東京ドームをTOBで子会社化(1205億円)
3 キリンホールディングス 豪州での飲料事業を同国の乳製品大手、ベガ・チーズに譲渡(409億円)
4 アウトソーシング アイルランド最大の人材派遣・紹介会社Cpl Resourcesを買収(396億円)
5 読売新聞グループ本社 株式16.27%を保有するよみうりランドをTOBで子会社化(389億円)
6 オープンハウス 投資用マンション事業のプレサンスコーポレーションをTOBで子会社化(367億円)
7 アンジェス ゲノム編集技術を持つ米エメンドバイオを子会社化(262億円)
8 麻生 東都水産にTOBを実施(181億円)※3分の1超の株式取得を目指すが、買付予定数の上限を設けておらず、50%超を取得し子会社化も想定
9 日本アジアグループ 米投資ファンドのカーライル・グループと組んでMBOで株式を非公開化(164億円)
10 三井化学 三井物産と共同で、中堅化メーカーの本州化学工業をTOBで子会社化(96.6億円)
11 常磐開発 MBOで株式を非公開化(61.1億円)
12 スプリックス 学習塾運営の湘南ゼミナール(横浜市)を子会社化(45.4億円)
13釜屋電機電子部品メーカーの双信電機(東証1部)をTOBで子会社化(35.9億円)
14    日清食品ホールディングス スナック菓子中堅、湖池屋の株式を追加取得し子会社化(22.5億円)
15カクヤスグループ 業務用酒類販売のダンガミ(福岡市)を子会社化(21.4億円)
16UTグループ 製造業向け人材派遣・請負事業のシーケルホールディングス(水戸市)を子会社化(17.8億円)
17グレイステクノロジー 老舗マニュアル制作会社のHOTARU(大阪市)を子会社化(14.3億円)
18じげん メディア事業のベーシック(東京都千代田区)から比較サイト事業を取得(12.5億円)
19フロイント産業 イタリアの医薬品製造機械メーカー、Cos.Mecを子会社化(12億円)
20IDホールディングス ソフト開発のウィズ・ホールディングス(東京都江東区)を子会社化(10.9億円)
21イワキ マジェスティゴルフ傘下で健康食品事業のマルマンH&B(東京都千代田区)を子会社化(10億円)

文:M&A Online編集部