ソフトバンクグループ(SBG)が傘下の英半導体設計大手のアーム(ARM)を手放すことになった。売却先は米半導体大手のエヌビディア(NVIDIA)。その金額は最大4.2兆円に上り、日本企業が絡むM&Aで歴代2位となるビッグディールだ。

SBGが2016年に約3.3兆円を投じてアームを買収した当時、日本企業による海外M&Aとして過去最大だったが、「買い手」と「売り手」の双方の立場を演じることで1兆円近い差益を手にする。

ソフトバンク、M&A上位10に4件ランクイン

アームのほか、社名変更前のソフトバンク時代には携帯電話の英ボーダフォン日本法人、米携帯大手スプリント・ネクステルの巨額買収を手がけている。今回のアーム売却で日本企業関連の大型M&Aトップ10(一覧表)のうち、ソフトバンク銘柄が実に4件を占める。

今年は新型コロナウイルス感染の世界的拡大を受け、クロスボーダー(国際間)の大型M&Aは低調に推移してきた。それが一転、8月以降、日本のM&A史を飾る大型案件が立て続けに発生している。いずれも「兆円」クラスだ。

先べんをつけたのが米コンビニ第3位のスピードウェイを2.2兆円で買収すると発表したセブン&アイ・ホールディングス。金額は発表時点で歴代4位にランクされる超大型案件だった。

セブン&アイとは反対に、買われる立場となったのが塗料国内最大手、日本ペイントホールディングス。筆頭株主のシンガポール塗料大手、ウットラムグループの傘下に入ることになった。

ウットラムによる取得金額は1兆1851億円でトップ10に入る。日本企業をターゲットにした案件としては、東芝が経営再建の一環として2018年に半導体子会社の東芝メモリ(現キオクシア)を米投資ファンドのベインキャピタルに約2兆円で売却したのに次ぐ。

及第点以上の高リターン

こうした一連の順位に変動をもたらせたのが今回のSBGによるアーム売却だ。アイルランド製薬大手のシャイアーを6.2兆円で買収(2018年発表)した武田薬品工業には及ばないものの、2位につける。入れ替わって、SBGのアーム買収は3位に順位を一つ落としたが、アーム関連が売り案件、買い案件のそれぞれで2、3位を占める異例の格好となった。

アームはスマートフォンやタブレットなど携帯端末の頭脳部分にあたる半導体技術のトップ企業。売却先のエヌビディアは画像処理やAI(人工知能)関連の半導体開発で知られる。

SBGが2016年に3兆3000億円で買収(100%子会社化)した当時、アームの純資産は3000億円程度。買収金額は純資産の10倍以上で、「高値づかみ」と酷評されたが、今回の売却金額は4兆円を優に超え、及第点以上の高リターンといえる。

◎英アーム:買収時と売却時の直近業績

2015/12期2020/3期
純資産3000億円4800億円
売上高1300億円2066億円
営業利益560億円47億円
純利益470億円△87億円

コロナ後へ次の一手は

もっともSBGが資産売却を進めるのには理由がある。米レンタルオフィス大手、ウィーワークに代表されるように投資先企業の業績不振などでSBGの財務内容が悪化していたところに、新型コロナウイルスの影響が重なり、手元資金を確保する必要が高まったためだ。SBGはアームに関して当初、再上場を検討していたが、エヌビディアの買収提案に応じた。

買いと売りが交錯するM&Aの世界。巨額買収で世間の耳目を集めてきたSBGが今回、巨額売却を繰り出した。投資会社化したSBGの面目躍如といえるが、ポスト・コロナを見据えて、次の一手が注目される。

◎日本企業が絡む大型M&Aの上位10(HDはホールディングスの略)

 買手企業対象企業買収金額発表年
1武田薬品工業アイルランド・シャイアー6.2兆円2018年
2米エヌビディア英アーム(ソフトバンクグループ傘下)4.2兆円2020年
3ソフトバンクグループ英アーム3.3兆円2016年
4日本たばこ産業英ギャラハー2.25兆円2006年
5セブン&アイ・HD米スピードウェイ2.2兆円2020年
6米ベインキャピタル東芝メモリ2兆円2017年
7ソフトバンク英ボーダフォン日本法人1.9兆円2006年
8ソフトバンク米スプリント・ネクステル1.8兆円2012年
9サントリーHD米ビーム1.65兆円2014年
10ウットラム・グループ (シンガポール) 日本ペイントHD1.18兆円2020年

※M&A Online編集部調べ

文:M&A Online編集部