化血研の受け皿会社を子会社化へ

 明治ホールディングス(HD)<2269>は菓子、乳業を中心とする食品業界のリーディングカンパニー。売上高は1兆2000億円を超える。食品のイメージが圧倒的な同社だが、近年、医薬品での存在感が着実に増しつつある。その推進役はほかでもないM&Aだ。

「明治HD、化血研の新会社を子会社化へ」。2017年12月13日付の新聞各紙は一斉にこう報じた。この前日、明治HDは、一般財団法人「化学及血清療法研究所」(熊本市)の事業を引き継ぐために設立される受け皿会社を連結子会社すると発表した。血液製剤の不正製造問題で経営刷新が求められていた化血研をめぐる混乱から2年。この間、アステラス製薬<4503>が支援に乗り出すとの観測も一時伝えられたが、ようやく化血研の事業再生への道筋が見えることになった。

 新会社は、人体用ワクチン、血漿分画製剤、動物用ワクチンなどの主要事業を現物出資などで承継し、2018年9月までに設立する計画。新会社は明治グループが議決権の49%(98億円)を持つ筆頭株主(明治HD29%、Meiji Seikaファルマ20%)となり、えがおホールディングス、熊本放送、再春館製薬所など7者の地元企業グループが49%(98億円)、熊本県が2%(4億円)を出資する。

ワクチンの販売強化と海外展開を狙う

 明治グループによるトータルの株式取得額は約180億円(無議決権株式75億円を含む)。明治側から取締役の過半数を送り込み、経営を主導する。化血研の事業を取り込むことで、感染症に対する予防から治療にいたるバリューチェーンの構築、ワクチンの国内販売強化と海外展開などを狙っている。

 化血研は1945年12月設立で、インフルエンザワクチンや4種混合ワクチン、肝炎ワクチンなどの開発、製造、供給で国内有数の実績を持つ。ただ、一連の不正製造問題で、2017年3月期の業績は売上高が前期比4割減の266億円、営業利益が同8割減の18億円と大幅に落ち込んでいた。

 明治HDは2009年、明治製菓と明治乳業が経営統合し、持ち株会社として誕生した。2年後の2011年、グループ内の事業再編によって、食品会社の「明治」と医薬品会社の「Meiji Seikaファルマ」がそれぞれ発足し、現在にいたる。

〇連結売上高・営業利益の推移 (いずれも3月期決算。単位億円)

2013年2014年2015年2016年2017年2018年(予想)
売上高 1兆2265 1兆1480 1兆1611 1兆22374 1兆2424 1兆2623
 ・食品 1兆0003 1兆0142 1兆0212  1兆0607 1兆0815 1兆0902
 ・医薬品   1261   1338     1398    1629   1609    1732
営業利益    258       364    515     777     883      965
営業利益率%    2.3     3.2     4.4      6.4     7.1      7.6

食品トップランナー。森永にも大きくリード

 食品業界(ビール、清涼飲料水など飲料会社を除く)で、売上高1兆円を超えるのは明治HD、日本ハム<2282>、味の素<2802>、山崎製パン<2212>の4社だけ。直接のライバルと目される森永乳業<2264>・森永製菓<2201>(合計で約8000億円)との開きも大きい。

 2018年3月期の連結売上高予想は1兆2623億円(前期比1.6%増)。セグメント別では食品が1兆902億円(前期比0.7%増)に対し、医薬品が1732億円(同7・2%増)。前期に薬価改定の影響などで減収だった医薬品は回復を見込む。食品が全売上高の86%と圧倒的なウエートを占めるが、伸び率でみると、5年前(2013年3月期)と比べて食品が約8%に対し、医薬品は約37%と成長率で勝る。海外売上高は食品430億円、医薬品406億円とほぼ拮抗する。

 こうした医薬品事業の成長を引っ張っているのがM&Aだ。実際、M&A案件のほとんどは医薬品事業に集中している。

主なM&A
1990年 大蔵製薬(京都市)を買収
1991年 スペインのテデック・ザンベレッティ(現テデック・メイジ・ファルマSP)に資本参加
1998年 北里薬品産業(東京都港区)に資本参加
2015年 インドのメドライクを買収
2016年 ノバルティスファーマから慢性閉塞性肺疾患治療薬の販売権を取得
2017年 持田製薬から高純度イコサペント(EPA)製剤のタイでの開発・販売権を取得

印メドライクを買収、ジェネリックの安定供給を確立へ

    2015年、Meiji が子会社化したのがインドの製薬メーカー、「メドライク」(本社バンガロール)。親会社の英国メドホールディングスから同社の全株式を296億円で取得した。メドライクは世界の製薬会社を相手に受託製造を手がけるほか、近年はジェネリック(後発)医薬品の製造・販売を欧州、アジア、アフリカなどに向けてグローバルに展開している。

 Meiji は、医薬品事業全体の4分の1を占めるジェネリック医薬品の一層の拡大とアジア・新興国を中心とした海外事業の積極展開を打ち出している。カギを握るのがローコストオペレーションの徹底と安定供給体制の確立で、その強力な援軍と位置付けるのがメドライクだ。ジェネリック医薬品をめぐっては今後の需要増とともに、一層の薬価引き下げが予想される中、「メドライクを活用して事業拡大のチャンスにしたい」(松尾正彦明治HD社長)と意気込む。

 メドライクは予定通り2017年10月、一部品目の製剤について日本への供給を始めた。高血圧や糖尿病など大幅な需要が見込まれる生活習慣病や消化器系領域を中心に順次、品目数を増やしていく。同社は30億錠の生産能力を備え、「このキャパシティーを最大限生かし、原価低減を進める」(同)としている。今後は、国内同業他社への製剤供給にも力を入れる。

1990年代以降、医薬品でM&Aを積極化

 明治グループの医薬品事業は終戦直後の1946年、抗生物質のペニシリンを製造したのが始まり。1958年には国産初の抗生物質「カナマイシン明治」を発売したことでも知られるほか、動物薬や農薬も早くから手がける。ジェネリック医薬品には1998年に参入した。海外では、インドネシアとタイで1970年代から医薬品の生産を始め、現地での品質管理体制に自信を持つ。

 医薬品関連のM&Aは1990年代から活発化。1990年、明治乳業(当時)が医薬経口ゼリー剤受託事業を手がける大蔵製薬(京都市)を買収し、完全子会社化した。翌1991年、スペインの製薬会社「テデック・ザンベレッティ」(現テデック・メイジ・ファルマSP)に資本参加(現在80%を出資)した。さらに1998年、ワクチン仕入れ・販売の北里薬品産業(東京都港区)に資本参加(現在60%出資)し、子会社とした。2017年には持田製薬が日本で販売している高純度イコサペント(EPA)製剤「エパデールS」に関し、タイでの製造・販売権を取得。Meijiはタイで長年培ってきた販路を生かし、事業拡大を目指す。

 明治HDは今春発表した「明治グループ2026ビジョン(骨子)」で、①コア事業での圧倒的優位性の獲得②海外市場での成長基盤の確立③健康価値領域での新たな挑戦④社会課題への挑戦-の四つの重点方針を掲げた。食品と医薬品を両輪とする事業特性を最大限発揮し、「健康・予防」領域へのアプローチを強めるのが全社的テーマだ。定量目標では、営業利益率1ケタ台半ば以上(年平均)、海外売上高比率20%以上(現在6%台)、ROE(株主資本利益率)10%以上維持などを目指す。

 明治HDは1916年、東京製菓(明治製菓の前身)として設立し、キャラメル・ビスケットの製造を始めた。明治乳業の前身、極東煉乳は翌年に設立された。

局面転回に 食品でもM&Aの可能性?

今も昔も、「チョコレートは明治」……

 100年の歴史を刻む食品事業では、牛乳、ヨーグルト、チョコレート、粉ミルクをはじめ国内シェアトップの製品を多数持つのが強みだ。1968年には日本で初めてのスナック菓子「カール」を発売。「ヴァーム」で知られるスポーツ栄養ドリンクなどの新市場も切り開いてきた。海外では米国、中国、アジアで攻勢を強めているが、とりわけ中国については事業の黒字化が足元の課題となっている。

 意外かもしれないが、大黒柱の食品事業ではM&Aの形跡はとくに見当たらない。ただ、医薬品と同様に、食品でも海外事業の拡大が経営上の大きな課題となっており、今後、局面転回を図るうえで本格的なM&Aに手をつける可能性は大いにあり得る。

〇大株主の構成

株主保有株式千株保有割合%
1 日本マスタートラスト信託銀行(信託口)    10,165   6.66
2 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口)   7,245   4.75
3 みずほ銀行   4,617   3.02
4 ジェーピーモルガンチェースバンク380055  3,102   2.03
5 りそな銀行   3,047   2
6 農林中央金庫   2,892   1.89
7 明治ホールディングス取引先持株会   2,562   1.68
8 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口5)   2,506   1.64
9 明治ホールディングス従業員持株会   2,484   1.63
10 STATE STREET BANK WEST CLIENT    2,344   1.54
その他  111,664   73.16
  合計  152,628   100


文:M&A Online編集部

この記事は企業が公開した有価証券報告書など開示資料、また各種報道などをもとに専門家の見解によってまとめました。