「2018年度に向けて(M&Aなどで)戦略投資として1兆円を投じる」。パナソニック<6752>の津賀一宏社長は2015年度の事業方針発表会で、こう高らかに宣言した。2011年に陥った業績不振から脱却し、創業100周年となる2018年からは、再び成長軌道を描ける企業に変身させるのが狙いだ。これまで戦略投資は着実に実施しており、あとは現在の事業計画の最終となる2018年1年を残すのみとなった。パナソニックの成長力を左右する2018年のM&Aはどのようなドラマが隠されているのか。投資家のみならず、多くの関係者の視線が自ずと集まる。

自前主義からの脱却

 パナソニックは赤字のテレビ事業などデジタル家電が足を引っ張り、2011年度、2012年度と2年連続で厳しい経営環境が続いた。2012年に就任した津賀一宏社長は業績回復に全力を上げるとともに、「自前では成長が難しい分野では、ノウハウと経営リソースを持ち事業ビジョンを共有できるパートナーと手を組む」と“脱・自前主義”を提唱。この方針に沿ってM&A戦略も舵を大きく切った。

 同社は創業以降の業容拡大時には積極的に企業や事業を買収し、急成長を遂げた。その後2000年ごろからはグループ会社を本体に取り込むなどのグループ再編を実施。そして津賀社長が就任してからはM&A第3期ともいえる経営資源の見直しを進めてきた。

 2013年に日本通運<9062>にパナソニック ロジスティクスの株式を66.6%譲渡。2014年には米国のファンドKKRにパナソニックヘルスケアの全株式を譲渡し、KKRとの共同持株会社に20%出資する形に移行した。さらにパナソニック トレーディングサービスジャパンの65%株式を近鉄エクスプレスに譲渡。北陸工場の半導体ウエハー製造工程を、イスラエルの半導体ファウンドリー企業であるタワーセミコンダクターが出資したパナソニック・タワージャズ セミコンダクター(タワーセミコンダクター51%、パナソニック49%出資)に移管した。

 このほかにも2014年に半導体海外組立工場3社の子会社の株式をUTACマニュファクチャリングサービシーズに、パンソニックITソリューションズを富士通に譲渡するなど、次々に脱・自前主義を進めてきた。その一方で、2013年には冷蔵庫や洗濯機、調理器などを生産するスロベニアのゴレーネ社の12.73%の株式を取得し、これら製品の欧州での生産拠点を確保するとともに、商品開発力を強化した。

今後需要が見込める電子ミラー

 2015年以降は買収の件数が増え、主な案件だけでも2017年までにその数は5件に達する。2015年は自動車部品メーカーであるスペインのフィコサ・インターナショナルS.A.の49%の株式を取得、2017年に20%の株式を追加取得し子会社化した。電子ミラー事業の立ち上げや先進運転支援システム分野での事業拡大を目指す。

 2016年には米国の業務用冷凍・冷蔵ショーケースメーカー・ハスマン社の全株式を取得し、米国で食品流通事業を強化した。2017年には欧州の物流ソリューション会社のZetes社の57.01%の株式を取得。同じ2017年には住宅事業を手がけるパナホームを完全子会社化。さらに住宅事業拡充のため、松村組の過半数の株式を2017年末までに、全株式を2018年上期中に取得する予定だ。

成長力を左右する2018年の戦略は

 ではパナソニックの成長力を左右することになる2018年はどうなるのか。

 津賀社長が2015年に打ち出したのが、家電、住宅、車載、BtoBソリューションズの事業軸と、日本・欧米などの地域軸との交点で成長可能な領域に重点的に経営資源を投下するという方針。これまでのM&Aもこの方針に沿って実施されてきた。現時点でこの方針は変更されていないため、2018年もこれら4事業分野でのM&Aが確実視される。これまでに投じた戦略投資の具体的な金額は明らかにされていないものの、2018年度までに数千億円のM&Aが実施されるとみて間違いはないだろう。

 2015年度にスタートした経営計画では最終の2018年度の売上高目標を10兆円としていた。現在はこの売上高目標を取り下げており、2018年度は営業利益4500億円、純利益2500億円と、利益優先の目標を掲げる。この点に関し、津賀社長は「売り上げの追求のために、M&Aの資金を投じることが必ずしも適切ではない」と語っている。つまり、戦略投資は2018年度以降に収益を伴う成長ができる企業体質を作り上げることが目的であり、売り上げ10兆円にはこだわらないというわけだ。ここからは津賀社長の合理的なものの考え方が見て取れる。

トップ交代はあるのか

 パナソニックの社長は60歳前後で就任し、66歳を前に退任するというケースが多い。創業者の故・松下幸之助氏が66歳で社長の地位を辞したことが影響していると見られる。就任6年目ながら津賀社長はまだ61歳。これまでのパターンとは大きく異なっている。

 2018年の100周年は新しい社長のもとで、新しい体制をスタートさせるのか。それとも成長できる企業体質を作り上げ、実際に成長軌道に乗せる役割を津賀社長自身が引き続き担うのか。さらに2018年以降の第4期のM&A戦略についてどのようなストーリーを描くのか。興味が尽きることはない。

〇パナソニックの役員構成

取締役会長   長榮周作
取締役副会長   松下正幸
代表取締役社長 社長執行役員CEO 津賀一宏
代表取締役 副社長執行役員オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社社長 伊藤好生
代表取締役 専務執行役員CSO CHRO 佐藤基嗣
代表取締役 専務執行役員コネクティッドソリューションズ社社長 樋口泰行
取締役   奥正之
取締役   筒井義信
取締役   大田弘子
取締役   冨山和彦
取締役 常務執行役員CRO CCO 石井純
取締役 執行役員CFO 梅田博和
常任監査役(常勤)   安原裕文
常任監査役(常勤)   吉田守
監査役   佐藤義雄
監査役   木下俊男
監査役   宮川美津子

ナショナルランプが大ヒット

 創業者である松下幸之助(当時23歳)氏が、自身で考案したアタッチメントプラグを妻むめの(当時22歳)さん、妻の弟の井植歳男(当時15歳)氏の3人で製造販売したのがパナソニックの始まり。ナショナルランプが大ヒットし急激に業容を拡大した。その後も事業領域は広がり続け、現在は部品から家庭用電子機器、電化製品、FA機器、情報通信機器、住宅関連機器などにいたるまでの生産、販売、サービスを行う総合エレクトロニクスメーカーに成長。「Panasonic」ブランドは世界で支持されている。2017年3月期時点で、連結売上高7兆3437億円、従業員数25万7533人、連結子会社数496社。

急成長のきっかけとなった角型のナショナルランプ

 2017年3月期の部門別売上高はテレビや冷蔵庫などのいわゆる家電部門の「アプライアンス」が2兆3245億円、旧松下電工が取り扱っていた住宅設備機器などの「エコソリューションズ」が1兆5457億円、パソコンなどを扱う「コネクティッドソリューションズ(元AVCネットワークス)」が同11兆407億円、自動車関連機器と電子部品の「オートモーティブ&インダストリアルシステムズ」が2兆5612億円、その他の製品で構成する「その他」が6566億円という構成。

〇部門別の売上高と営業利益

決算2016/03期2017/03期
売上高 アプライアンス 2兆2788億円 2兆3245億円
  エコソリューションズ 1兆5927億円 1兆5457億円
  コネクティッドソリューションズ(元AVCネットワークス) 1兆1727億円 1兆407億円
  オートモーティブ&インダストリアルシステムズ 2兆7073億円 2兆5612億円
  その他 6471億円 6566億円
  消去・調整 △7723億円 △7850億円
  7兆6263億円 7兆3437億円
営業利益 アプライアンス 596億円 1043億円
  エコソリューションズ 763億円 625億円
  コネクティッドソリューションズ(元AVCネットワークス) 690億円 296億円
  オートモーティブ&インダストリアルシステムズ 502億円 1093億円
  その他 141億円 80億円
  消去・調整 △389億円 △369億円
  2303億円 2768億円


〇部門別の製品構成

事業名取引商品・製品
アプライアンス ルームエアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、美・理容器具、電子レンジ、ビデオ機器、オーディオ機器、掃除機、炊飯器、自動車、ショーケース、大型空調、コンプレッサー、燃料電池など
エコソリューションズ 照明器具、ランプ、配線器具、太陽光発電システム、水回り設備、内装建材、外装建材、換気・送風・空調機器、空気清浄機、介護関連など
コネクティッドソリューションズ(元AVCネットワークス) 航空機内エンターテインメントシステム・機内通信サービス、パソコン・タブレット、プロジェクター、放送用カメラシステム、監視・防犯カメラ、デジタルカメラ、固定電話など
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ 車載インフォテインメントシステム、電装品、リチウムイオン電池、車載電池、乾電池、制御機器、モーター、電子部分、電子材料、半導体、駅塩生パネル、電子部品実装システム、溶接機など
その他 戸建住宅、集合住宅、分譲用土地、建物、リフォーム、原材料など

初めての買収は88年前の合成樹脂メーカー

 パナソニックが初めてM&Aを手がけたのは88年前の1929年。当時は「アタッチメントプラグ」などの配線器具にアスファルトや石綿、ゴムなどを配合した練り物を使っていた。これを樹脂製に切り替えるため、買収したのが合成樹脂メーカーの橋本電器だった。その後発売した角型の乾電池式ランプ「ナショナルランプ」が大ヒットし、乾電池の需要が爆発的に増えたため、小森乾電池を買収、電池事業に参入した。このあともM&Aを積極的に進め、オランダのフィリップスとの提携、日本ビクターとの提携、米国モトローラーの民生機器事業の買収、映画や音楽ソフトを手がける米MCAの買収など華々しい案件が相次いだ。創業から2000年ごろまでがM&Aで事業を拡大した第1期といえる。

 第2期は2002年に実現した松下通信工業、九州松下電器、松下精工、松下電送システム、松下寿電子工業のグループ5社の完全子会社化に始まる。その後も三洋電機の50.19%の株式を取得し子会社し、2011年にはパナソニック電工、三洋電機を完全子会社化し、第2期の特徴であるグループの再編を終えた。

〇パナソニックのM&Aと提携の歴史

年    代  内        容 
1929 年  橋本電器(合成樹脂メーカー)買収
1931 年  小森乾電池買収 
1932 年  岡田電気商会の乾電池工場買収
1936 年  朝日乾電池を松下の傘下に 
1952 年  ①中川機械と提携 ②フィリップスと提携    合弁で松下電子工業設立 
1954 年  日本ビクターと提携
1956 年  ①日本電気精器(旧川北電気製作所)と共同出資で大阪電気精器設立 ②ウエスト電気(写真用閃光電球)を傘下に
1957 年  神藤ポンプ(工業用ポンプ)を傘下に 
1958 年  相宅金属工業(自転車のフレーム・ハンドル)と提携 
1962 年  東方電機と提携
1974 年  米モトローラ社の民生機器事業買収 
1988 年  松下電器産業と松下電器貿易の対等合併
1990 年  米 MCA 社を買収
1993 年  松下電子工業を 100%子会社化(フィリップス社との合弁解消)
1996 年  米プラズマコ社を買収 
2002 年  グループ 5 社の完全子会社化 
2004 年  松下電工との包括的協業 
2008 年  ①日本ビクターとケンウッドの経営統合 ②パナソニック、三洋電機の資本・業務提携契約締結  
2011 年  パナソニック電工、三洋電機    完全子会社化 
2013 年  ①パナソニック  ロジスティクスの株式譲渡 ②スロベニアのゴレーネ社と資本・業務提携 
2014 年  ①KKR とのパナソニック  ヘルスケアの株式譲渡、共同持株会社設立 ②パナソニック  トレーディングサービス  ジャパンの株式を一部譲渡 ③北陸工場(魚津・砺波・新井)の半導体ウェハ製造工程をタワーセミコンダクター社から出資を受けた新会社へ移管 ④半導体海外組立工場 3 社の子会社の株式を UTAC マニュファクチャリングサービシーズへ譲渡 ⑤パナソニック IT ソリューションズの株式譲渡 
2015 年  ①RFNET テクノロジー社を買収 ②パナソニック  ビジネスサービスの株式譲渡 ③パナソニック  エクセルスタッフの株式譲渡 ④パナソニック  エクセルスタッフの 66.61%の株式をテンプスタッフへ譲渡。 ⑤ビデオインサイト社を買収 ⑥10フィコサ・インターナショナル S.A.との資本業務提携 
2016 年  ①ハスマン社の株式取得 ②鉛蓄電池事業をGSユアサに譲渡 ③OpenSynergy GmbH (本社:ドイツ、オープンシナジー社)の全株式を取得し子会社化
2017 年  ①物流ソリューション Zetes社を買収 ②産業用レーザーメーカー    テラダイオード社の全株式を取得 ③パナソニック  デバイス SUNX の株式交換による完全子会社化 ④パナホームの完全子会社化 ⑤システムインテグレーターDATA COLLECTION SYSTEMS を子会社化 ⑥松村組の株式取得 

この記事は、当該企業の取材を基に執筆いたしました。

文:M&A Online編集部