トヨタグループの源流が仕掛けるM&A戦略

 豊田自動織機<6201>は、トヨタグループ創始者である豊田佐吉氏が自身で開発した自動織機の製造販売を目的として、1926年(大正15年)に設立された。いわばトヨタグループの源流をなす会社である。2016年で創業90年を迎えたが、果たして、日本を代表する大手企業の源流にある会社は、いかなる発想や手法でM&Aを推進してきたのか。 

【企業概要】エアジェット織機は世界市場シェアNo.1

 豊田自動織機は大正から昭和に時代が移りゆくなかで産声を上げた老舗の繊維機械メーカー。現在の国内売上高トップ企業であるトヨタ自動車は、豊田自動織機の自動車部を分離独立し、1937(昭和12年)に設立した企業であり、豊田自動織機は同社株式を6.63%保有する大株主である(2017年3月31日現在)。1949(昭和24)年に東証1部、大阪、名古屋各証券取引所に上場(現在は東証1部及び名証1部)した。

  2017年3月31日現在の従業員数は5万2,623名、資本金804億円、同3月期の売上高は2兆2,504億円、営業利益1,229億円、経常利益1,771億円、当期純利益1,255億円となっている。

  現在の事業は自動車部門、産業車両部門、繊維機械部門の3部門に分かれている。自動車部門では車両組立やエンジン、カーエアコン用コンプレッサー、自動車用電子部品・機器、プレス金型など、車両及び自動車関連製品の開発・生産を行っている。カーエアコン用コンプレッサーは世界シェア40%を占める。

  産業車両部門ではトヨタL&F(ロジスティクス&フォークリフト)ブランドのフォークリフト、「BT」「レイモンド」などのブランド車両を販売し、高所作業車を「アイチ」のブランドで販売している。

  繊維機械部門は創業以来の事業であり、紡機および織機の開発・生産・販売を一貫して行い、その大部分の製品を世界市場へ輸出している。主力製品であるエアジェット織機は世界市場シェアNo.1である。

 【役員陣】トヨタグループの“生え抜き”が並ぶ

 現在の社長は大西朗氏。トヨタL&Fカンパニー経営企画部長、取締役、常務、専務を経て社長に就任した、いわば生え抜きである。その他の役員も、役員として他から招聘された人材よりトヨタグループのなかで出世してきた人材が多い。ちなみに代表権を持つ会長の豊田鐵郎氏は、豊田自動織機創業者・豊田佐吉の甥でトヨタ自動車初代会長である豊田英二氏の二男である。

【株主構成】グループ内の相互持合いで取引関係を強化

  トヨタ自動車<7203>の23.51%を筆頭にデンソー(9.10%)、東和不動産(5%)、豊田通商(4.69%)とトヨタグループ各社が名を連ねており、この大株主4社の保有割合は42.3%になる。以下もトヨタグループ各社のほか、金融機関が並ぶ。

豊田自動織機の大株主

株主名称保有株式数(千株)保有株式割合(%)保有時価(百万円)
トヨタ自動車<7203>76,600 23.51 445,075.8
デンソー<6902> 29,647 9.10 172,275.2
東和不動産16,291 5.00 94,656.7
豊田通商<8015>15,294 4.69 88,788.0
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9,864 3.03 57,362.0
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 8,271 2.54 48,085.6
日本生命保険相互会社 6,580 2.02 38,241.3
アイシン精機<7259>6,578 2.02 38,241.3
あいおいニッセイ同和損害保険4,903 1.50 28,397.0
豊田自動織機従業員持株会 4,015 1.23 23,285.5

2015年度 有価証券報告書より

 豊田自動織機も同様に、トヨタグループ各社の株を保有しており、相互持合いによる強固なグループ関係が見てとれる。過去2003年からの株主推移データを見ても、主要株主の大きな変動はなく、今後も変動の可能性は低いと考えられる。

特定投資株式

銘柄株数(株)貸借対照表計上額(百万円)保有目的
デンソー<6902>69,372,764 313,842 取引関係の維持・強化
豊田通商<8015>39,365,134 100,105 取引関係の維持・強化
アイシン精機<7259>20,711,309 87,815 取引関係の維持・強化
トヨタ紡織<3116>7,756,062 14,224 取引関係の維持・強化
ジェイテクト<6473>7,813,046 11,407 取引関係の維持・強化

2016年度 有価証券報告書より抜粋

【M&A戦略】21世紀に入り、選択と集中のM&Aを活発化

 豊田自動織機は、1900年代はM&Aではなく、グループ内の再編や海外合弁会社の設立などを中心に進めてきた感がある。実質的なM&Aは2000(平成12)年、スウェーデンのウェアハウス(倉庫)機器メーカーのBTインダストリーズ株式会社(現トヨタマテリアルハンドリングヨーロッパ)の買収から始まっている。翌年にはグループ会社のトヨタ自動車よりフォークリフトメーカーのL&F社を事業譲受を受け、さらに2003(平成15)年、高所作業車メーカーのアイチコーポレーションを子会社化した。

  3社の車両メーカーは現在、産業車両部門の主軸メーカーであり、同部門は部門売上高1兆15億円であり、同社売上高の実に44.51%を占めている。創業以来の事業である繊維機械部門は662億円で2.94%にとどまるのと比較すると、この10年強でいかに中核事業として育っているかが理解できる。

  2000年~2003年にかけて実施したM&Aは、それ以前のM&Aの経験をもとに、物流ソリューション事業を将来の事業の柱とすべく展開していくための戦略的買収であった(同社買収時適時開示より)。

沿革とM&A

年月内容
1926年11月 豊田佐吉発明の「自動織機」を製造するため、愛知県刈谷市に設立
1929年4月 紡機の製造開始
1933年9月 自動車製造のため、自動車部を設置
1937年8月 自動車部を分離独立し、トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車株式会社)を設立
1940年3月 製鋼部を分離独立し、豊田製鋼株式会社(現愛知製鋼株式会社)を設立
1949年5月 東京、名古屋および大阪の各証券取引所に株式上場
1953年4月 自動車用エンジンの製造開始
1956年3月 フォークリフトトラックの製造開始
1960年1月 カーエアコン用コンプレッサーの製造開始
1980年5月 エアジェット織機の製造開始
2000年6月 スウェーデンのウェアハウス用機器メーカーであるBTインダストリーズ株式会社(現トヨタ  マテリアル  ハンドリング  ヨーロッパ株式会社)を買収
2001年4月 トヨタ自動車株式会社からL&F(ロジスティクス&フォークリフト)販売部門を譲受
2003年5月 高所作業車等の製造および販売を行う株式会社アイチコーポレーションを子会社化
2005年3月 集配金・売上金管理および機械警備を行う株式会社アサヒセキュリティを子会社化
2006年1月 重要書類・磁気テープ等の安全保管管理・集配サービス等を行う株式会社ワンビシアーカイブズの株式取得
2007年5月 株式会社ワンビシアーカイブズの株式を追加取得し子会社化
2012年2月 糸品質測定機器・綿花格付機器の製造および販売を行うスイスのウースター テクノロジーズ株式会社を子会社化
2013年3月 フォークリフト用アタッチメントの製造・販売を行う米国のカスケード株式会社を子会社化
2015年10月 事業の集中と選択のため、連結子会社である株式会社朝日セキュリティをセコム株式会社へ、ワンビシアーカイブズの株式を日本通運株式会社へそれぞれ売却
2015年12月 販売金融事業強化のため、子会社であるトヨタ インダストリーズ コマーシャル ファイナンス株式会社を通じて、トヨタ自動車株式会社の子会社であるトヨタ モーター クレジット株式会社(アメリカ)のコマーシャルファイナンス部門の事業および資産を譲受

M&A Online編集部作成

 物流事業は2015(平成27)年3月期には980億円、営業利益で62億円を計上していたが、同年12月にアサヒセキュリティをセコムに810億円で(取得価額195億円)、ワンビシアーカイブズを日本通運に860億円でそれぞれ売却している。この売却に伴い当期純利益は590億円増加し、同年の業績の向上に大きく寄与している(下図参照)。なお、この売却は「主力事業の一層の成長を推進させていくための事業の集中と選択」を理由としている。

部門別売上高推移

部門別売上高の推移
豊田自動織機HPより

 産業車両部門を強化する目的のM&Aとしては、2013(平成25)年3月、フォークリフト用のアタッチメントの製造・販売を行う米国のカスケードを公開買付により100%子会社化している。また、2015(平成27)年10月には販売金融事業強化のため、子会社であるトヨタインダストリーズコマーシャルファイナンスを通じて、トヨタ自動車株式会社の子会社であるトヨタモータークレジット(アメリカ)のコマーシャルファイナンス部門の事業及び資産を譲受している。