3月に入り、日本企業による海外企業買収がパタリと止まっている。海外企業買収はこれまで毎月10~15件程度(適時開示ベース)で推移してきたが、3月も後半入りした16日時点でわずかに2件。新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に経済活動が低下する中、M&A市場にも異変が及んだ形だ。

タイ・韓国で各1件だが…

上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)をM&A Online編集部が集計したところ、3月1日から16日までのM&A件数は32件。月間82件だった昨年3月に比べると、明らかな鈍化傾向にあるが、なかでも顕著なのが海外企業買収の失速ぶりだ。昨年3月は12件(月間)を数えたが、今年はここまで2件にとどまる。

一つは、TISがタイのITサービス企業MFEC Public Company(バンコク)を約18億5000万円で子会社化する案件。タイ証券取引所に上場するMFECにTOB株式公開買い付け)を行い、約25%の持ち株比率を49%(外国株主による保有上限)に高める。もっとも、TISは2014年からMFECと資本・業務提携関係にあった。

もう一つは、日本ドライケミカルが韓国の消防機器メーカーのMasteco Industry(仁川)を子会社化する案件。日本ドライケミカルは約21%の株式を保有するMastecoの第2位株主で、こちらも元々、資本関係がある間柄だ。

上記2社のケースはいずれも買収側がすでに大株主で、今回、新規に着手したM&A案件というわけではない。こうした点を踏まえれば、3月の海外買収は実質的にゼロともいえる。今年に入り、1月9件(M&A総数69件)、2月14件(同77件)で推移し、3月は一転底をはう状態に陥っている。

通常、海外企業を買収する場合、デューデリジェンス資産査定)の一環として現地調査が欠かせない。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で渡航が制限される中、こうした現地調査もままならず、クロージング(取引成立)までのスケジュールに大幅な狂いが生じていることが容易に想像される。

また、M&Aを専門とする弁護士の一人は「(新型コロナによる)売上不振で、M&Aどころでなくなった企業もある」と話す。

東日本大震災直後も海外買収10件キープ

年度末である3月は例年、年間を通じてM&A件数の上位を争う。2010年~19年の過去10年間をみると、3月のM&A件数が年間最多だった年は6回ある。19年は11月(86件)に次いで3月(82件)が2番目に多かった。

唯一の例外が東日本大震災が起きた2011年3月。この3月のM&Aは53件と過去10年間で最も少なく、前年より25件以上減った。ただ、それでも海外企業買収は大震災当月の3月を含め、4月、5月と10件台をキープした。

2019年のM&A総数は前年を59件上回る841件と4年連続で増加し、08年(870件)以来の高い水準となった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、人・モノ・カネの流れがさらに滞る事態になれば、この先、M&A市場の縮小が避けられそうにない。

文:M&A Online編集部