ソフトバンクグループ<9984>は2016年7月、ロンドン証券取引所に上場している英国の半導体回路設計大手ARM(アーム)ホールディングス(以下「ARM」)を約3.3兆円(約240億ポンド)で買収すると発表した。孫氏がARMのスチュアート・チェンバース会長とトップ交渉を行い、交渉開始から合意に至るまで2週間という電撃的な買収劇であった。
ソフトバンクは、ボーダフォン(買収価額1兆7500億円)やスプリント(買収価額1兆8000億円)の買収等、数多くの大型M&Aに挑戦してきたが、ARMの買収は、買収価額で過去最高の取引となる。ソフトバンクは、ARMを、グローバルな半導体の知的所有権と「IoT(モノのインターネット)」における優れた能力を有し、イノベーションに実績のある世界有数のテクノロジー企業と評価、再び、大型M&Aによるパラダイムシフトに挑戦する。
年月 | 内容 |
---|---|
2016.6 | アリババ株式の一部を、アリババ、アリババのパートナー企業、政府系ファンド等に売却する。売却総額は約100億ドル。 |
2016.6 | スーパーセル株式をテンセントの関係会社に約7700億円で売却。 |
2016.6 | ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下「ガンホー」)株式を、ガンホーが実施する公開買付に応募して売却(730億円) |
2016.7 | ロンドン証券取引所に上場している英国の半導体回路設計大手ARMホールディングス株式100%を3.3兆円で買収。 |
ARMの財務は図1の通り。直近の2015年12月期の売上9.68億ポンド(当時の為替相場で約1791億円)、営業利益4億ポンド、当期利益3億ポンドの企業だ。純資産は17.9億ポンドとなっており、投資額240億ポンドから純資産を控除したのれん代(及び無形資産)は、222億ポンド、営業利益の55年分、当期利益の65年分の水準だ。
仮に、ARMの将来の業績が15年12月期と同水準であれば半世紀以上も投資金額が回収できない計算だ。そう考えると、ARMは相当割高に映る。
図1 AMRの業績推移(単位:百万ポンド)
2013年12月期 | 2014年12月期 | 2015年12月期 | |
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売上高 |
714.6 |
795.2 |
968.3 |
営業利益 |
153.5 |
309.0 |
406.1 |
当期利益 |
104.8 |
255.4 |
339.7 |
純資産 |
1311.4 |
1528.3 |
1797.6 |
総資産 |
1638.4 |
1837.2 |
2120.2 |
もちろん、企業の価値を決めるのは将来キャッシュフロー(CF)である。将来CFには、買収に関わらず譲渡企業が有する実力の部分と、買収する事によって実現されるシナジー効果の部分がある。そしてこのシナジー効果が大きければ大きいほど、のれん代が膨らんでもいい理由になる。
この点、7月28日の決算発表の際に、シナジー効果が見えにくい企業だという孫氏の発言があった。これは、シナジー効果が見えすぎるインテルやクアルコム等は、独占禁止法上買収ができないが、ソフトバンクならできるという説明の際の発言であるが、ステークホルダーとしては、孫氏が頭の中で思い描くシナジー効果を少しでも示してもらいたいのが本音であろう。