エムスリー<2413>は、ITバブルの最中である2000年に、外資系コンサルティング会社マッキンゼー出身の谷村格氏によって設立された。エムスリーの由来は、Medicine(医療)、Media(メディア)、Metamorphosis(変容)の頭文字であり、医療業界にメディアを通じて変革をもたらすことを使命としている。同社は設立から4年でマザーズに上場、さらにその3年後には東証一部に上場した異色の企業である。現在は世界各地の医師とのネットワークを活用して、医師に対する医療情報の発信や製薬会社向けソリューションの提供を行っている。

 損益・財務状況は16年3月決算時点で、売上高646億円、営業利益200億円、営業利益率30%、自己資本比率75%で、損益・財務面ともに超優良といえる企業である。設立から4年で上場、16年で売上高600億円を達成した背景には、戦略的なM&Aの活用がある。

 同社設立から1カ月後にリリースされた製品「MR君」は、インターネットを利用した製薬業界のMR(注1)向け業務ツールであった。インターネットが高度に普及した現在から考えると、業務のIT化は一般的になっているが、当時の製薬会社の営業は非常にアナログで、数分間の医師との面談のために1日中MRが病院で待機しているということも珍しくなかった。このように非効率的な営業を行う製薬業界にビジネスチャンスを感じた谷村氏は、当時コンサルティングをしていたソネットとエムスリー(当時はソネット・エムスリー)を設立し、アナログな製薬業界に風穴を開けた。この強力な業務ツールに改善と拡充をしつつ、M&Aを活用して業容を拡大していくこととなる。注1:MRとは、医薬情報担当者(Medical Representative)の略称で、医薬品の適正使用のため医療従事者を訪問することなどにより、医薬品の品質、有効性、安全性などに関する情報の提供、収集、伝達を主な業務として行う者のことを指す。

 エムスリーのM&Aは、フェーズに応じて2つのパターンに大別される。第1フェーズが、医師とのリレーションの強化・拡大である。このフェーズにおいては、医師会員を多く抱える医療情報サイトを買収している。例えば、設立からわずか1年半後にソフトバンク系列企業であるウェブエムディからサイトを買収した。第1フェーズにおけるミッションは、医師とのリレーションの強化・拡大を通じて、自社ソリューションである「MR君」の拡販を行うことにあった。

 一方で、第2フェーズは、築いてきた医師とのリレーションを生かした周辺事業(エムスリーにおいてはプラットフォーム派生事業と呼ばれている)の展開フェーズである。08年に診療予約システムの開発会社を買収したのを皮切りに、1年に1社のペースでM&Aを行っている。また、この時期の特徴は、M&Aの第2フェーズと並行して日本で成功したMR君事業の海外輸出が行われていたことである。

 このようなM&Aを活用した戦略的な事業展開の結果、会社設立からわずか16年で売上高600億円を達成したのである。