企業の成果を評価するにあたって頻繁に利用される財務指標として、ROEがあります。ここ数年でROEを重視する企業が非常に多くなってきましたが、実際にROEを使ってどのように経営状況の良否を判断すればよいのでしょうか。

 今回は、M&A巧者で高ROE企業として知られるソフトバンクやRIZAP(ライザップ)を例に挙げ、同じ高ROEの企業にどのような共通点や相違点があるのか分析してみたいと思います。

 分析対象として挙げたのは、以下の3つの企業です。
<9984>ソフトバンクグループ㈱
<3092>㈱スタートトゥデイ
<2928>RIZAPグループ㈱

 まず前提として、ROEは自己資本利益率を指し、少ない自己資本で多くの純利益を出すほどROEは向上します。しかし、ROEは単に自己資本利益率として考えるだけでなく、各要素ごとに分解して考えることでより有用性が増すといわれています。よく財務分析において利用されるのが、ROEを以下のように分解する方法です。

 上記3つの会社について、2017年3月期の財務数値を用いてROEを分解してみると以下のようになります。

各社17/3期の有価証券報告書より

(総資本及び自己資本は、過去2年を平均値を用いており、また、自己資本は非支配株主持分を除いています。)

 多くの日本企業がROE8%前後の達成を目標として日々経営努力をしている中で、上記3社のROEは非常に高い水準となっています。しかしROEを分解してみると、それぞれにROEの高い要因が異なっており、面白い結果となっています。

ソフトバンクが高ROEなのはM&Aをしているから?

 まず、ソフトバンク<9984>は当期純利益ももちろん高いのですが、7.3倍という高い財務レバレッジが、高ROEの実現に最も寄与していることが分かります。ソフトバンクは年間売上高が10兆円近くある超巨大企業であるにも関わらず、将来有望な企業に対する投資を非常に積極的に行っていますが、その投資額も数兆円を超える莫大な規模であるため、自己資本による資金調達を行おうと思うとかなり大変です。

 公募増資を行うにしても、数兆円を集めるのは容易ではなく、また、特定の投資家に第三者割当を実施してしまうと、既存株主に希薄化が生じたり、株主構成が大きく変わることも考えられます。そのため、高い財務レバレッジは、安全性が不十分ではないかという疑念を持たれやすい一方で、財務レバレッジが高い合理的な理由が存在するのであれば、それはむしろ潜在的な成長性があるとして高評価に捉えることができるのです。

 他方、総資本回転率は39.3%とほかの2社と比較して低水準となっていますが、これは資産規模と比較した場合の収益はそこまで大きくないことを意味します。ソフトバンクの場合は、2017年3月期の資産総額24.6兆円のうち、実に約11兆円もの金額がのれん、無形固定資産として計上されているため、買収の結果BS上に計上された無形の資産が、まだ収益獲得には十分に貢献できていないのではないかということが懸念されます。

キャッシュリッチなスタートトゥデイのビジネスモデル

 次にスタートトゥデイ<3092>ですが、この会社は当期純利益が非常に高く、また、ソフトバンクとは裏腹に総資本回転率が高水準であるという特徴があります。スタートトゥデイはファッション通販のZOZOTOWN(ゾゾタウン)を運営している会社として知られていますが、主にEC事業を行っているため、BS上多額の固定資産は計上されず、2017年3月期は、流動資産が約456億円である一方で、固定資産は約100億円となっています。さらに流動資産のうち約220億円が現預金であるため、非常にキャッシュリッチな会社であり、安全性も相対的に高いことが分かります。

 スタートトゥデイは、ZOZOTOWNを通じて各ブランドからEC店舗の受託運営手数料を受け取る「受託ショップ販売」による収益が9割以上を占めています。そのため、特段、大規模な新規設備投資を実施しなくても、①アクティブユーザー数を増加させる、②受託手数料率を引き上げる ことで、売上高を伸ばすことが可能となります。そのため、資産規模と比較して大きな収益を得ることが可能となるのです。最近ではZOZOSUITS(ゾゾスーツ)をリリースしましたが、このような企画等を通じて新たなユーザーを取り込むことで、今後もどんどん総資産回転率は上がっていき、ROEもそれに応じて上昇していくことが考えられます。

結果にコミットするRIZAPのM&A

 RIZAPグループ<2928>は、総資本回転率は高く、また、財務レバレッジも4.4倍と高くなっており、ソフトバンクとスタートトゥデイの特徴を両方備えているように見受けられます。「結果にコミットする」というCMで一世を風靡したRIZAPは、メインであるスポーツジム事業をはじめに、住宅関連サービスやカフェの運営、アパレルショップ等も展開している多角化された会社です。というのも、RIZAPはM&Aを非常に積極的に実施しており、2017年3月期は出版会社やインテリア雑貨チェーン等、7社も買収を行っています。そのため、買収資金として多額の借入を行った結果、財務レバレッジが比較的高くなっています。

 また、比較的高い総資本回転率からは、トレーニングジム等の設備投資は行っているものの、それを十分に回収できるだけの付加価値を提供し、収益に結びつけることができていることが分かります。ただ、ライザップのセグメント情報を見る限り、あくまでも稼ぎ頭はトレーニングジムをはじめとした美容・健康関連事業であり、買収によって生まれた新たな事業セグメントの利益率はそこまで高くありません。今後も買収により利益率が高くない事業分野にもどんどん進出した場合には、グループ全体の当期純利益率が落ち込み、結果としてROEも低下することが考えられることに留意が必要と考えられます。

ROEがもつ本当の意味

 このように、同じように高いROEを誇る会社でも、その要因はそれぞれに異なることが分かります。そのためROEは、単に数字の良否だけを見るのではなく、各構成要素別に分解して、それを皮切りに会社の強みや弱み、将来性や課題等を分析するのに役立てることが、本来の使い方であるといえます。指標が語る意味を真に理解できる分析眼を身につければ、投資においても経営においても、一歩リードすることができるかもしれません。

文:Yuki Yoshida(公認会計士)/編集:M&A Online編集部