自社不動産売却ブームから透けて見える日本企業の「行動変容」

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迫る「地価下落」を前に、大企業による不動産の売却ラッシュか?

「残す資産」から「地価に応じて売買する資産」へ

何より懸念されるのは、不動産の実需ではなく金融政策の転換だろう。日本の不動産価格を支えているのは、世界的な「カネ余り」現象だ。日本の大手企業から不動産を取得しているのは外資系ファンドが主力となっている。

有り余るマネーが流れ込み、欧米主要都市の不動産が大幅に値上がりした。さすがに割高感が高まり、先進国では地価が割安な日本の不動産投資が注目されている。その「土地投機マネー」にも陰りが見え始めた。

2020年の不動産取引額は全世界で前年比3割減となり、日本も4%減に。すでに海外では不動産バブルは「手仕舞い」に入り、日本市場も追随する可能性が高い。おりしも2021年の東京都内の公示地価が8年ぶりに下落に転じている。外資系ファンドが国内不動産投機を「手仕舞い」する前に売り抜けなければ、高い売却益は望めない。

こうした日本企業の動きには、自社不動産に対する意識の変化が見て取れる。今回本社を売却した企業の多くは、同じ物件を賃貸して営業を続ける。つまり「所有する不動産」から「使用する不動産」への「行動変容」だ。

事実、オフィス仲介大手の三鬼商事によると、2020年8月に都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均募集賃料は6年8カ月ぶりに下落に転じた。2021年2月にはオフィス空室率が2015年6月以来、5年8カ月ぶりに好不調の目安とされる5%を超えている。

「一生懸命」の語源は同じ場所でコツコツ頑張る「一所懸命」で、日本企業も「創業の地」や「本社」にこだわる傾向が強かった。しかし、ソニー(現ソニーグループ)<6758>が創業の地*だった東京都品川区北品川の旧本社ビルを2014年に売却、キリンホールディングス<2503>は2013年に東京都渋谷区原宿と同中央区新川の旧本社ビルを売却するなど、かつてあった「抵抗感」も薄まりつつある。

もはや土地は企業にとって「ステータス」という象徴的なものではなく、生産手段の一つにすぎない。そうなれば「高く売って、安く借りる」と考えるのも当然だ。

長期的に見れば、地価が下落した時に「安く買い戻す」動きも出るだろう。日本企業はこれまでの「万一に備えて手元に残す最後の資産」だった不動産を、地価に応じて売買または貸し借りする「最適運用」のフェーズに入ったようだ。

*ソニー(当時は東京通信工業)は1946年に東京都中央区日本橋の旧白木屋(現コレド日本橋)店内で創業、翌1947年に本社および工場を東京都品川区の御殿山地区に移転した。その後約60年間にわたって同地区に多数の関連施設が立地したこともあり、同地区が実質的な「ソニー創業の地」とされている。

文:M&A Online編集部

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