公開日2017年6月22日
東芝は本日(6月21日)の取締役会で、分社化した半導体事業会社の売却を巡り、産業革新機構、米ベインキャピタル、日本政策投資銀行からなるコンソーシアムに優先交渉権を与えると決定しました。
また韓国の半導体メーカーであるSKハイニックスと三菱東京UFJ銀行も、資金の貸し手として参加するようで、「日米韓連合」とする報道が多いようです。
また東芝が公表した本日のIRには「(半導体事業会社の)企業価値、国外への技術流出懸念、国内の雇用の確保、手続きの確実性等の観点から総合的に評価した」と書かれています。
この期に及んでまだ東芝の経営陣に「総合的に判断する」能力が残っていたとは思えませんが、今月28日開催の定時株主総会までに最終合意し、来年3月末までに売却完了を目指すようです。
何とか東芝の技術の(あればですが)国外流出を避けたい経済産業省と、何とか(形だけでも)主導権を残したい産業革新機構が政策投資銀行を巻き込み、KKRやシルバーレイクよりは「何とかなりそうな」ベインキャピタルを中心に据え、そのベインキャピタルが連れてきた同業のSKハイニックスが出資ではないため独禁法審査も何とかなりそうと考え、銀行団や一般株主をひとまず安心させられる2兆円まで何とか積み上げただけのものです。
半導体事業会社の売却を差し止めているウェスタン・デジタルにどう対処するとか、定時株主総会まで1週間しかないこのタイミングで優先交渉権を与えてしまったら足元を見られるとか、万一決裂した場合に他陣営がもっと足元を見るはずなど、少しだけ先のことも一切考えていないようです。
さて漏れ伝わってくる資金の負担割合ですが、この半導体事業会社を買収する特別目的会社(SPC)を設立し、産業革新機構と日本政策投資銀行が3000億円ずつ、ベインキャピタルが8500億円を出資し、そのベインキャピタルにSKハイニックスが4000億円を融資し、さらに三菱東京UFJ銀行が5500億円を融資し、合わせて2兆円とするようです。
お話になりません。
まずベインキャピタルに限らず、こういうファンドが企業買収する場合、だいたい自己資金は3割程度で株式の過半数を握り経営を支配してしまいます。残る7割は外部資金(つまり借入れ)ですが、買収が成功するとこのSPCを被買収会社(ここでは東芝の半導体事業会社)と合併させてしまいます。
つまりファンドの借入れを含むすべての借入れは、被買収会社が(くどいようですが東芝の半導体事業会社のことです)せっせと返済することになります。そのために過酷なリストラで人件費をケチり、必要な設備投資もケチり、負債の返済を優先しなければなりません。その一方でファンドは、しばらくするとIPOで自己資金分をさっさと回収してしまい、コストがタダ以下となった株式でその後も経営を支配し続けることになります。
今回は産業革新機構と政策投資銀行が3000億円ずつ出資しても、それぞれ全体で2兆円の15%ずつでしかなく、三菱東京UFJ銀行の5500億円を純粋の融資としても総出資額の1兆4500億円の20%強ずつでしかなく、経営には何の口出しもできない「少数株主」でしかありません。せいぜい取締役の椅子を少しだけ割り当ててもらえるだけです。
ベインキャピタルが自己資金で出資する4500億円は(SKハイニックスが4000億円を融資するから)、総出資額1兆4500億円の31%ほどで、だいたいファンドが企業買収で出資する自己資金の割合となります。
ここでベインキャピタルとSKハイニックスの「仕切り」が不明ですが、SKハイニックスの4000億円は融資なので、そのまま半導体事業会社に返済させてしまうような気がします。とりあえずスタート時点ではSKハイニックスに経営執行を任せるはずですが、業績が伴わなければ(早くIPOができなければ)「解任」してしまうはずです。
ベインキャピタルはたった4500億円で半導体事業会社をすっかり支配できているので、何でもありとなります。
三菱東京UFJ銀行も、そんなSPCに5500億円も融資して大丈夫と思っているのでしょうか?というよりその5500億円もSPCにではなくベインキャピタルに融資するような気がします。その方が優先的に返済されるはずだからです。
そうするとベインキャピタルは4500億円の自己資金で、融資の(SKハイニックスと三菱東京UFJ銀行の)9500億円は半導体事業会社に押し付けてしまうため、1兆4000億円の半導体事業会社の株式を取得することになり、順調にいけばその2割ほどを売却すればすべて自己資金を回収できるはずです。もちろんその後も延々と半導体事業会社を支配し続けることになります。
ファンドによる企業買収とは、日産自動車を買収したルノーや、シャープを買収した鴻海グループなどに比べて「はるかにタチが悪い」ものなのです。
新たな国賊行為が始まるようです。
(以下、その後の報道も入れて追加記事です)
原子力事業の巨額損失に揺れる東芝が半導体部門の分社化に伴い、東芝から半導体事業の受け皿となる会社となる東芝メモリへ移管される関係会社が判明しました。