最新のテクノロジーで開発された、高度な電子部品を詰め込んで作られるAppleのiPhoneなどのスマートフォン(スマホ)。タッチスクリーン型のキーボードやアプリなどソフトウェアで実現する機能だけでなく、ハードウェアを上手く活用して、今までになかった機能も実現している。

 スマホ部品のサプライヤーの地位は激しく厳しい競争の舞台にもなっている。加速度センサーやジャイロセンサーによって実現されているスマホならではの機能のほかにも、携帯電話の重要な機能を担う部品のサプライヤーを巡る動きもそれは同じだ。

 そこで今回は特に、スマホだけではなく、いわゆるガラケーにも搭載されており、マナーモードに設定した時に起動される、着信を知らせるバイブレーション機能を実現している部品、小型・精密モーターについてのM&A、特にM&Aに精力的に取り組んできた日本電産(Nidec)に焦点を当ててみよう。

■スママホの振動を作り出す「振動モーター」

 スマホやガラケーのバイブレーション機能については、いまさら、説明しなくてもいいだろう。他方で、スマホをはじめとした携帯電話の振動はモーターによって実現されていたと、知ってもらえてはいただろうか。
 
 実際には、携帯電話の振動は「振動モーター」と呼ばれる部品が着信時にバイブレーションを起こしており、携帯電話の要の一つとでもいえる役割を果たしているのだ。

 振動モーターについて、もう少し詳しく説明すれば、モーターの回転軸に、重心をズラした分銅体を装着させている。着信時には、モーターが回り、不釣り合いな分銅体も一緒に回転することで、振動を起こす仕組みだ。

 さらに、スマホの振動という点では、最近、操作時に本体がブルッと震える動きも導入されており、基本的には同じ仕組みだ。ただ、スマホの振動については振動モーターだけではなく、静電アクチュエーターを用いて起こしている動きもある。日本電産はモーターで大きなシェアを握っているのはもちろん、こちらの静電アクチュエーターへの取り組みも推進しており、次の推進力にできるかも注目だ。

 ■三洋精密の買収で弾みをつけた日本電産

 もちろんモーターは「回るもの、動くもの」に特化した「総合駆動技術の世界No.1メーカー」の実現が目標だと公言している通り、日本電産の得意分野ではある。その中で、こちらも日本電産に特徴的な取り組みだとされるM&Aを積極的に活用しており、事業展開を加速させている。

 最近の例では、ドイツのコンプレッサーメーカーであるSecop、イタリアの建設現場向け吊り上げ機の開発・製造・販売会社であるECE Srl、スペインの大型サーボプレス機器の開発・製造・販売および関連サービスを提供するArisa SA、さらにはアメリカのEmerson Electricのモータ・ドライブ事業と発電機事業など、海外企業の買収にも積極的なところにも特徴がある。

表:日本電産が2000年以降に買収した企業や事業(抜粋)

買収時期買収先企業事業内容取得金額備考
2017年4月Secop Holding GmbH(独)と関連会社回路冷却用の気密圧縮機約221億円買収資金としては借り入れを活用し、現金での支払い。
2016年5月ECE Srl(伊)建設現場向け吊り上げ機の開発・製造・販売約228億6600万円中東地域・北アフリカで高いブランド力を保持、建設現場向け吊り上げ機の製造・販売の展開を強化。ECE Srlの売上高は約510万ユーロ/年。
2015年8月Arisa SA(スペイン)大型サーボプレス機器の開発・製造・販売および関連サービス-自動車向けの大型プレスや欧州での事業展開を加速させ、サーボプレス事業への本格進出
2016年8月Emerson Electricのモータ・ドライブ事業と発電機事業-約1398億円Emerson Electricから買収先企業の各社を取得しており、2010年のEmerson Electricからのモーター・制御ビジネスの取得に続く、同社事業の取得の推進
2013年10月本田エレシス車体系の自動車電子制御ユニットの開発・製造・販売-電動パワーステアリング(EPS)モータとエレシスの電子制御回路(ECU)を組み合わせ て一体化したモジュールとしての提供を模索
2012年11月Ansaldo Sistemi Industriali SpA(伊)産業用大型モータ、発電機、低電圧・中電圧ドライブ事業、産業システム及びオートメーション約369億円-
2010年12月三洋精密スマートフォン向けの振動モーターなどの小型精密モーターの製造・販売-パナソニックの子会社である三洋電機から、非公開額で買収した。資本構成は内部で分裂しており、85.5%は日本電産の保有となり、残りの14.5%は、日本電産の子会社である日本電産コパルの所有買収後は、日本電産精密に社名を改めた。
2007年3月日本サーボブラシレスDCモーター、ステッピングモーター等の精密小形モーターの製造・販売約47.3億円-
2005年2月三協精機産業用ロボットなどの製造・販売約91億2200万円2004年7月から順次、株式の取得を進展させてきた。買収金額は合計額。
2006年12月Valeo Motors & Actuators(仏)車載用モータの製造・販売約221.8億円-

M&A Online編集部作成

 スマホなどのモバイル端末向けの振動モーターに限れば、比較的に大きなM&Aとみられるのは2010年の、現在はパナソニックの傘下に入っている三洋電機のグループ会社だった三洋精密の取得だろう。

 もともとモーターに強い日本電産は2010年の三洋精密の取得では、小会社の日本電産コパルと共同で、三洋電機から三洋精密を取得(金額は非公表)。日本電産本体が85.5%の株主に、日本電産コパルが残りの14.5%と、保有比率を分け合う格好だったもので、買収により小型モーターの製品ラインを拡張し、年間232億円を売り上げる事業をグループ会社に加えた。

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 買収後は、日本電産精密に社名を改めており、2013年には日本電産グループとして、スマホや携帯電話用の小型モーターの市場で4割以上のシェアを確保した形だ。スマホ向けの振動モーターのサプライヤーとしての地位をものすごい勢いで、盤石なものにしてきたと言えるだろう。

 最近では、日産系の自動車部品メーカーのカルソニックカンセイの買収にNidecがかかわるのではないかとの観測が流れるなど、今後もまだまだNidecの買収戦略には驚かされる可能性もありそうだ。

文:M&A Online編集部