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「ビジネスの世界で戦うならファイナンスから始めなさい。」
今回は、ファイナンスの概念を理解するのにピッタリな「ビジネスの世界で戦うならファイナンスから始めなさい。」を取り上げる。ファイナンスに苦手意識がある人にこそ、おすすめだ。
最新のテクノロジーで開発された、高度な電子部品を詰め込んで作られるAppleのiPhoneなどのスマートフォン(スマホ)。タッチスクリーン型のキーボードやアプリなどソフトウェアで実現する機能だけでなく、ハードウェアを上手く活用して、今までになかった機能も実現している。
スマホ部品のサプライヤーの地位は激しく厳しい競争の舞台にもなっている。加速度センサーやジャイロセンサーによって実現されているスマホならではの機能のほかにも、携帯電話の重要な機能を担う部品のサプライヤーを巡る動きもそれは同じだ。
そこで今回は特に、スマホだけではなく、いわゆるガラケーにも搭載されており、マナーモードに設定した時に起動される、着信を知らせるバイブレーション機能を実現している部品、小型・精密モーターについてのM&A、特にM&Aに精力的に取り組んできた日本電産(Nidec)に焦点を当ててみよう。
スマホやガラケーのバイブレーション機能については、いまさら、説明しなくてもいいだろう。他方で、スマホをはじめとした携帯電話の振動はモーターによって実現されていたと、知ってもらえてはいただろうか。
実際には、携帯電話の振動は「振動モーター」と呼ばれる部品が着信時にバイブレーションを起こしており、携帯電話の要の一つとでもいえる役割を果たしているのだ。
振動モーターについて、もう少し詳しく説明すれば、モーターの回転軸に、重心をズラした分銅体を装着させている。着信時には、モーターが回り、不釣り合いな分銅体も一緒に回転することで、振動を起こす仕組みだ。
さらに、スマホの振動という点では、最近、操作時に本体がブルッと震える動きも導入されており、基本的には同じ仕組みだ。ただ、スマホの振動については振動モーターだけではなく、静電アクチュエーターを用いて起こしている動きもある。日本電産はモーターで大きなシェアを握っているのはもちろん、こちらの静電アクチュエーターへの取り組みも推進しており、次の推進力にできるかも注目だ。
もちろんモーターは「回るもの、動くもの」に特化した「総合駆動技術の世界No.1メーカー」の実現が目標だと公言している通り、日本電産の得意分野ではある。その中で、こちらも日本電産に特徴的な取り組みだとされるM&Aを積極的に活用しており、事業展開を加速させている。
最近の例では、ドイツのコンプレッサーメーカーであるSecop、イタリアの建設現場向け吊り上げ機の開発・製造・販売会社であるECE Srl、スペインの大型サーボプレス機器の開発・製造・販売および関連サービスを提供するArisa SA、さらにはアメリカのEmerson Electricのモータ・ドライブ事業と発電機事業など、海外企業の買収にも積極的なところにも特徴がある。
買収時期 | 買収先企業 | 事業内容 | 取得金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2017年4月 | Secop Holding GmbH(独)と関連会社 | 回路冷却用の気密圧縮機 | 約221億円 | 買収資金としては借り入れを活用し、現金での支払い。 |
2016年5月 | ECE Srl(伊) | 建設現場向け吊り上げ機の開発・製造・販売 | 約228億6600万円 | 中東地域・北アフリカで高いブランド力を保持、建設現場向け吊り上げ機の製造・販売の展開を強化。ECE Srlの売上高は約510万ユーロ/年。 |
2015年8月 | Arisa SA(スペイン) | 大型サーボプレス機器の開発・製造・販売および関連サービス | - | 自動車向けの大型プレスや欧州での事業展開を加速させ、サーボプレス事業への本格進出 |
2016年8月 | Emerson Electricのモータ・ドライブ事業と発電機事業 | - | 約1398億円 | Emerson Electricから買収先企業の各社を取得しており、2010年のEmerson Electricからのモーター・制御ビジネスの取得に続く、同社事業の取得の推進 |
2013年10月 | 本田エレシス | 車体系の自動車電子制御ユニットの開発・製造・販売 | - | 電動パワーステアリング(EPS)モータとエレシスの電子制御回路(ECU)を組み合わせ て一体化したモジュールとしての提供を模索 |
2012年11月 | Ansaldo Sistemi Industriali SpA(伊) | 産業用大型モータ、発電機、低電圧・中電圧ドライブ事業、産業システム及びオートメーション | 約369億円 | - |
2010年12月 | 三洋精密 | スマートフォン向けの振動モーターなどの小型精密モーターの製造・販売 | - | パナソニックの子会社である三洋電機から、非公開額で買収した。資本構成は内部で分裂しており、85.5%は日本電産の保有となり、残りの14.5%は、日本電産の子会社である日本電産コパルの所有買収後は、日本電産精密に社名を改めた。 |
2007年3月 | 日本サーボ | ブラシレスDCモーター、ステッピングモーター等の精密小形モーターの製造・販売 | 約47.3億円 | - |
2005年2月 | 三協精機 | 産業用ロボットなどの製造・販売 | 約91億2200万円 | 2004年7月から順次、株式の取得を進展させてきた。買収金額は合計額。 |
2006年12月 | Valeo Motors & Actuators(仏) | 車載用モータの製造・販売 | 約221.8億円 | - |
M&A Online編集部作成
スマホなどのモバイル端末向けの振動モーターに限れば、比較的に大きなM&Aとみられるのは2010年の、現在はパナソニックの傘下に入っている三洋電機のグループ会社だった三洋精密の取得だろう。
もともとモーターに強い日本電産は2010年の三洋精密の取得では、小会社の日本電産コパルと共同で、三洋電機から三洋精密を取得(金額は非公表)。日本電産本体が85.5%の株主に、日本電産コパルが残りの14.5%と、保有比率を分け合う格好だったもので、買収により小型モーターの製品ラインを拡張し、年間232億円を売り上げる事業をグループ会社に加えた。
買収後は、日本電産精密に社名を改めており、2013年には日本電産グループとして、スマホや携帯電話用の小型モーターの市場で4割以上のシェアを確保した形だ。スマホ向けの振動モーターのサプライヤーとしての地位をものすごい勢いで、盤石なものにしてきたと言えるだろう。
最近では、日産系の自動車部品メーカーのカルソニックカンセイの買収にNidecがかかわるのではないかとの観測が流れるなど、今後もまだまだNidecの買収戦略には驚かされる可能性もありそうだ。
文:M&A Online編集部
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今回は、ファイナンスの概念を理解するのにピッタリな「ビジネスの世界で戦うならファイナンスから始めなさい。」を取り上げる。ファイナンスに苦手意識がある人にこそ、おすすめだ。