カルロス・ゴーン前日産自動車<7201>会長が2019年12月末に日本を密出国し、レバノンへ逃亡した。日本の出入国管理の隙間を突かれたわけだが、ゴーン前会長側も2009年にアフガニスタンで拉致されたアメリカ人ジャーナリストの救出に成功した元米軍特殊部隊員を雇うなど周到な準備を講じていたと報じられている。実戦経験豊富な特殊部隊出身者が関わっていたのが事実だとすれば、日本の警察が厳重に守りを固めていたとしても突破が可能だったかもしれない。

「無罪の公算が大きい」訴訟から逃げた

さて、問題はなぜゴーン前会長が「逃げた」か、である。実はゴーン前会長の裁判は、検察側が不利とみられていた。最初の容疑となった有価証券報告書の不実記載は、重罪となる粉飾決算ではなく役員報酬の過少計上だ。しかも、すでに支払われた報酬ではなく、未払いで金額すら確定していない。問題になるとしても、日本では修正報告を求められる程度の内容という。

ゴーン前会長が仮に本件で有罪になるとしたら、米ウェスティングハウスの「のれん代」の減損処理を先延ばしにした結果、業績を急激に悪化させ株主に多大な損失をもたらした東芝<6502>の旧経営陣が、刑事事件として警察や検察の事情聴取すら受けなかったこととの整合性が取れなくなる。

誤解しないでほしいのは、東芝の旧経営陣が刑事罰を受けるべきだったと言っているのではない。当時の会計制度では認められていた処理だった。要は企業と当局の「解釈の相違」の範囲内である。つまりゴーン前会長の報酬問題も同様に、いきなり逮捕して長期間にわたる拘束をするような刑事事件ではないとの見方がある。

もちろん日産が2020年1月7日に発表したゴーン前会長の不正行為に伴う損害賠償請求の継続など、民事的な責任追及は回避できない。東芝の旧経営陣も刑事事件としては立件されなかったものの、自らの会社から損害賠償訴訟を起こされている。

さて、捜査側が不利な状況においては、自白が唯一の切り札になりうる。そこで金融商品取引法違反よりも立件が厳しいとみられている特別背任罪で再逮捕を繰り返し、長期拘留したというわけだ。ゴーン前会長が自白しない限り、検察は身柄を確保し続けようとするのである。

年末のタイミングで密出国したのも、今年4月の公判開始に向けてなんとしても自白がほしい検察が年明け早々に身柄の再拘束に踏み切る可能性を恐れてのことかもしれない。「まさか、そこまで」と思われるかもしれないが、決して杞憂とも言い切れないのだ。