こんにちは。ビズサプリの花房です。師走となり、年末特有のイベントや来年に向けての仕事の整理など、多くの方は通常月よりも忙しくされることと思います。さて今回のビズサプリ通信では、最近特に目立って来ている企業不正の根本原因から、企業の社会的な役割について再考してみたいと思います。

 1.相次ぐ不正問題とその問題の本質

今年のビズサプリ通信では、東芝の不正問題について多く取り上げてきましたが、不正自体は2015年に起こったもので、今年は監査報告書が出来るかどうかと上場維持問題にスポットライトが当たっていました。ところが、9月以降は立て続けに、日産の無資格者による検査不備、神戸製鋼所、三菱マテリアル、東レの品質データの改ざんが発覚し、日本のものづくりへの信頼性の危機のように取り上げられています。

いずれも今年たまたま行われたというものではなく、30年とか40年と言った前から行われていたような証言も出て来ています。原因の究明は道半ばですが、すでに経営トップが辞任に追い込まれるなど、その影響が徐々に波及しています。

このような不正がなぜ起こったかということについては、過去の事例も含めてコンプライアンス意識・モラルの低下、経営陣・上司からのプレッシャー、隠ぺい体質といった経営風土上の問題があった等、様々な理由が挙げられるのですが、突き詰めるところ、多くの場合は結局「利益」の成長を続けなければならないという市場からの圧力によることが、多くの場合の不正問題の本質ではないかと考えています。そうであれば、増収増益による成長を続ける企業が、最も優れている企業であるという評価に対応するため、経営者として無理をしてまで利益を確保する縛りを逆になくせばいいのではないか、と思うのです。

 2.資本主義経済とガバナンス強化

上記のことについては、上場会社である以上、会社を成長させることが経営者に課せられるミッションであり、増収増益を続けて行くことが、投資家に対しての責任を果たすことであって、そのプレッシャーに屈して不正を働くことのないよう、内部統制を整備・運用し、コンプライアンス遵守の体制を強化し、企業風土を含めた企業のガバナンスを向上させることで、不正を防げるのであるから、その上でやはり利益を追求して行くべきだと言った反論があることはもちろん承知しています。

しかしながら、経済の成熟した先進国にとって、一般市民にとって食べて行くために稼ぐことが人生のすべてではなく、価値観が多様化し、少子高齢化が進み、国内市場の成長が見込めない中で、マーケットがゼロサム、場合によっては縮小を余儀なくされる厳しい状況の中で会社を成長させていかなければならないのと、高度成長期に代表されるマーケット自体が成長する時代において、それなりにやっていれば企業を成長させられるのでは、ITの技術革新などで新たに作り出される産業は別として、旧態依然の既存産業については競争環境があまりに違い過ぎるように思います(事実、今回立て続けに不正が発覚している企業は全て、素材産業や製造業と言った、かつて日本の中心となっていた産業ではないでしょうか)。

資本主義経済は自転車操業であると形容されますが、それは経済全体が成長することで、誰も損をせず、皆が勝者になることが大前提であるように思います。
それが一たび停滞すると、勝者と敗者が出てきて、敗者が多くなることで不況になり、資本主義は停まってしまうという理屈です。IoTやAIと言った、今後成長する可能性の高い分野の出現や、技術革新によって、今まで不況を克服できたということもあるでしょう。

しかし資本主義経済であることから、毎期の成長、言い換えると利益を計上し続けることがあまりに強く求められる結果、その市場圧力が不正の要因となるのであれば、逆に投資家が利益をそこまで求めなければ、不正を起こそうとする動機が減り、その結果ガチガチで窮屈なガバナンスでなく、ほどほどの健全なガバナンスで済むような気がいたします。とは言っても資本主義経済よりもいいと考えられる経済システムはないのが現状ではあるのですが。

グローバル化がどんどん進展し、未開拓地域がなくなる一方、人間の生活には消費活動が必要ですから、皆が豊かになり人口が増えると、物的な資源が徐々に枯渇していきます。このような問題に対応するため、大量生産・大量消費ではなく、循環型社会への取り組みが色んな形で試されています。シェアリングエコノミーの提唱もその問題解決への取組みの1つでしょう。

 3.利益が全てではない

それでは投資家は利益以外に何を企業に求めればいいのでしょうか?利益は、企業の決算書の中でも代表的な指標であり、決算書に関する情報を財務情報と分類します。一方、有価証券報告書やアニュアルレポートの中には、財務情報以外の情報があり、これを財務情報に対して非財務情報と分類します。非財務情報は、経営者による財政状態・経営成績の分析、経営理念や経営ビジョン、経営者や従業員の情報、中期経営計画と言ったものがあります。また古くは環境報告書と言われ、近年ではCSR報告書から、サスティナビリティレポートと形を変えて来ていますが、主に環境問題や社会問題に対しての企業の社会的取り組みをまとめたものです。

最近では、この財務情報と非財務情報を別個のものではなく、1つにまとめた「統合報告」を作成することが、ヨーロッパ企業を中心にトレンドとなっています。企業としては、『財務情報以外にも社会に提供する価値を含めて、企業価値を含めて欲しい』というメッセージと理解しています。実際、機関投資家の中には 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ってESG投資と呼び、そこへの取り組みが優良な企業に投資して行こうというという考え方も生まれています。ただ、環境問題や社会問題に対する取り組みが財務情報と結びつきにくく、また過去・現在のみならず将来に影響するものでもあるため(財務情報は基本的に過去情報)、投資効果として判断しづらいと言った課題もあるので、投資指標として『利益』を超えるものにはなっていません。

少し前になりますが、ブータンで重要視されている指標として、GNPならぬGNH(=Gross National Happiness)が話題となりました。国民1人当たりの幸福を最大化することで、社会全体が幸福となるとの考え方から生まれた指標です。コンセプトそのものは大変理想的なものですが、最近ブータンで問題となっているのは、『幸せ』の定義が揺れていることだと言います。当初近代的な物を持っていない状況では、皆が欲しい物は共通で経済の成長とともにそれらが手に入り幸福度も上がっていったのが、ある程度の物が普及し、経済格差が徐々に出てくると価値観も多様化し、それぞれの『幸せ』の尺度に幅が出てきているようです。これは、高度成長期前後の日本と同じではないでしょうか。

以前高校生時代の夏休みの課題図書で、『豊かさとは何か』(暉峻淑子 著、1989年 岩波新書)という本を読んだ記憶があります。漠然とですが、本当に幸せなのは物質的な豊かさではなく精神的な豊かさなのだというような話だと漠然とは感じたものの、未熟な高校生の経験からは、本当に深い意味では理解できず、難解な本だったように思います。1989年と言えばバブルの真っ只中にあって、その中で30年も前にこの本を書いた著書の社会の洞察力は、今更ながら凄いと感じます。

今年の11月はちょうど北海道拓殖銀行の破綻、山一証券の自主廃業から20年の節目ということで、雑誌等で関連の記事が多く書かれています。詳細はそれらの記事に譲るとして、やはり根本的な原因は、利益を追求するあまり無茶をした、ということでした。

ここで改めて企業の社会的な役割について、大学時代に学んだことを思い返してみると、企業には多くの利害関係者(ステークホルダー)が存在して、株主だけでなく、従業員、顧客、債権者、取引先、政府、地域社会などとお互いに助け合うことで企業は存続できているのであり、そのための利害調整をする役割を、財務会計が果たしている、と学びました。つまり、企業は株主や投資家だけを見るのではなく、それ以外の利害関係者にもきちんと向き合わなければならないところ、最近特に、投資家の方を向く傾向が強くなっています。

投資家からみれば、人件費、仕入、税金、金利、いずれもコストですが、それらを受け取る側にとってみれば「利益(あるいは収入)」であって、売上が一定の下では、投資家の『利益』を増やそうとすると、その他の利害関係者への分配を減らさなければなりません。果たしてそれが社会的にいいことなのか、それを改めて考えなければならないと思います。先程の著書のタイトルを借りると「企業の豊かさとは何か」を考えた場合、それは投資家の懐を潤すことだけではないはずです。そのような観点から、企業活動の責任とその果たすべき役割を見直すべき時代に来ており、持続可能な社会実現のためには、個々の企業そのものの持続可能性を『利益』以外の部分でも高めて行く必要があります。

ステークホルダーとの関係性が投資家偏重になるのではなく、バランスの良い関係を再構築することが、今後の健全な企業ガバナンスではないかと考えます。

ビズサプリグループでは、上場支援、企業再編、M&A、PMIにおける各種支援の他、内部統制やガバナンス向上支援も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

文:株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.065 2017.12.6)より転載