「大物」であるがゆえに自白を取りたい検察

ゴーン前会長のような「大物」を逮捕し、しかも長期拘留しておいて無罪判決となれば、検察側の打撃は極めて大きい。しかも、国際的に「人質司法」と批判を受けている訴訟だ。ここまで来たら、なんとしても有罪に持ち込みたいはずだ。

事実、 元厚生労働省局長だった村木厚子氏を逮捕した検察は、5か月にわたる長期拘留にもかかわらず自白を得られなかったため、証拠のフロッピーディスク内の情報を改ざんするという暴挙に出ている。

これは検察の体質というよりも、「大変有能な局長で、厚労省内の期待を集めていた」(舛添要一厚労相=当時)同省期待の女性キャリア官僚を逮捕・長期拘留しておきながら無罪では検察の立場がない。そこでやむなく証拠の改ざんに手を染めたというのが真相だろう。

この時、村木氏の弁護人として無罪を勝ち取ったのが弘中惇一郎弁護士だ。当然、検察の「やり口」は熟知しているはず。もちろん今回は「勝てる訴訟」だけに弁護人が逃亡をそそのかすわけもないが、訴訟対策として検察側の取りうる手段を聞いたゴーン前会長が恐れをなした可能性はある。

「逃走劇」で最もメリットがあるのは

皮肉にも今回の「逃亡劇」で、最もメリットを得そうなのは検察側である。有罪の可能性が低い金融商品取引法違反事件の初公判は被告人の国外逃亡で延期となり、そのまま立ち消えになる見通しだ。つまり検察の「負け」はなくなるのに加え、「やはり逃げ出したゴーン前会長が悪い」との世論が高まった。

ゴーン裁判で問題視された検察のいわゆる「人質司法」の是非も、うやむやに終わりそうだ。マスメディアやネットでは「やはり保釈を簡単に認めるべきではなかった」との声もあがっている。ゴーン前会長の逃亡により、「人質司法」がさらに強化される風向きになってきた。

一般市民でも痴漢やネットなりしすましの冤罪で逮捕され、自白を強要されたケースは多い。2012年のパソコン遠隔操作事件では、なりすましによる殺人予告投稿により事件の当事者でもないのに逮捕された4人のうち3人が犯行を自白。真犯人による犯行声明がなければ有罪となるところだった。

文:M&A Online編集部