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【エボラブルアジア】M&Aで長い下積みからの「脱出」に成功

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エボラブルアジア<6191>は、インターネットを介した旅行事業を展開するオンライン旅行会社(Online Travel Agency=OTA)。2007年5月創業のベンチャーだが2018年9月期の年商(旅行取扱高)は831億円と、OTAではリクルートホールディングス<6098>系の「じゃらん」、「楽天トラベル」と肩を並べる大手に育った。その急成長の原動力はM&Aである。

<図1>エボラブルアジアの年商(旅行取扱高)推移、単位:億円、2008年9月期は6ヶ月決算

苦しい下積み時代を経て、成長のきっかけつかむ

「エボラブルアジア」。外資系のアジア法人のような社名だが、れっきとした日本企業だ。2007年5月に、吉村英毅社長と大石崇徳会長の2人で共同創業した「旅キャピタル」が前身。初期のM&Aは創業者である吉村社長と大石会長がそれぞれ起業したValcomとアイ・ブイ・ティの2社が対象で、いわばグループ内の再編にすぎなかった。

旅キャピタルは国内航空券販売サイトを運営するが、まもなく高い壁にぶち当たる。「将来性があるビッグビジネス」と飛び込んだOTA業界だったが、すでに有力な競合がひしめきあう激戦区で新規参入の同社が割って入るのは至難の業だった。

業績の伸び悩みに直面した同社は、旅行商品のOEM供給に乗り出す。いわば他社の「下請け」だ。他の旅行代理店向けに航空券や乗車券、国内外のホテルなどの検索・予約システムを制作し、他社ブランドで提供した。一般消費者向けのBtoCモデルだけでなく、企業向けのBtoBモデルへと事業の幅を広げたのである。

この経験が後のBtoCビジネスに生きる。BtoBは同業の旅行代理店が相手なので、さまざまな要望が寄せられる。当然、プロだけに注文は厳しい。それが旅行商材を柔軟にカスタマイズするヒントになった。

BtoCの一般向けOTAでは、そうはいかない。そもそも顧客は気に入らなければ商品を購入しないだけなので、改善のヒントを得にくい。顧客からの改善要望が寄せられても、的を射るものだけではなく、思い付きや実現可能性の低いものも多く集まる。

BtoBのOEM供給で、同社のOTAとしての「基礎体力」は大いに鍛えられた。長く苦しい下積み時代は決して無駄ではなかったのだ。


宿泊予約サイトの買収で使い勝手を向上

2016年7月、いよいよ飛躍のチャンスが巡ってきた。高級ホテル予約サイトを運営する「らくだ倶楽部」の買収に成功したのだ。航空券販売で強みを持つ同社に、ブランド力の高い宿泊予約サービスが追加され、OTAとしての使い勝手が大幅に向上する。

OTAは航空券をはじめとする移動手段だけでは利益が出にくい。宿泊手配と組み合わせることで、双方の手数料やスケールメリットをもとに安価で有利な条件の旅行商品を提供でき、事業規模も拡大する。事実、らくだ倶楽部を買収した2016年9月期以降、同社の旅行取扱高は急成長した<図1>。

2017年3月には予約サイトのブランド名を従来の「空旅.com」から、現在の「Air Trip(エアトリ)」に変更する。その際、イメージキャラクターに人気コメディアンのオリエンタルラジオを起用して、テレビなどで大量のコマーシャル(CM)を打ち、話題となった。

OTAは消費者に知られなければ、存在しないのと同じ。どんな良い旅行商品を取りそろえても、なかなかビジネスに結びつかない。同社は下積み時代に、それをいやというほど思い知らされた。だから、ブランドイメージを一新したのを機に、派手なCM戦略で消費者の認知度を引き上げようとしたのである。

もちろん、CMの大量投入も「エアトリ」の認知度向上に貢献はした。が、競合する大手OTAも積極的なCM展開をしており、なかなか頭一つ抜け出すことができない。CMは「やらなければ知られないままだが、やったからといって広く知られるわけではない」ものなのだ。

ところが、ある出来事が「エアトリ」の認知度を一気に引き上げる。それは、またしても同社が仕掛けたM&Aだった。


同社の主なM&A
年月 買収先 業種 買収額
2009年10月 Valcom 航空券販売サイト運営、創業者の1人である吉村社長が起業 非公表
2011年10月 アイ・ブイ・ティ 航空会社の代理店、創業者の1人である大石会長が起業 非公表
2016年7月 らくだ倶楽部 宿泊予約サイト運営 1600万円
  エルモンテRVジャパン キャンピングカー事業 1000万円
2017年4月 EVA/エヴァディ システム開発・ベトナム人材紹介事業 非公表
  Punch Entertainment Company Limited ゲーム開発・ITオフショア開発事業 非公表
2017年5月 東京マスターズ 海外出張手配事業 非公表
2017年10月 HNC15 メールマガジンやウェブサイトの運営を利用した広告メディア事業 自社株式3億4993万円相当
  まぐまぐ メールマガジンやウェブサイトの運営を利用した広告メディア事業 8億円
  エヌズ・エンタープライズ 国内パッケージツアー販売サイト運営とと旅行代理店への卸売り 非公表
2018年5月 DeNAトラベル オンライン総合旅行サービス 12億円
  Destination Japan 訪日外国人向け Wi-Fi レンタルサービス「Japan Wireless」の運営 非公表
2018年8月 KAYAC HANOI CO., LTD オフショアでのウェブ制作事業 非公開
2019年6月 セブンフォーセブンエンタープライズ ツアーの企画や旅行のアレンジ、現地でのサポート事業 非公表

格安だった「DeNAトラベル」の買収

それは、2018年5月のOTA大手「DeNAトラベル」買収だ。当時、DeNAトラベルの旅行取扱高は555億円で国内14位、エアトリは403億円で20位。有名企業DeNA<2432>傘下の企業が対象だったことや「小が大を飲む」買収だったこともあり、報道で大きく取り上げられることになった。

しかし、最もOTA業界を驚かせたのは12億円という買収価格だ。OTAは今後の成長が見込める分野であり、企業価値は高騰している。2003年9月に楽天が買収したホテル予約の「旅の窓口(マイトリップ・ネット)」は323億円、2016年2月にヤフー<4689>が買収した高級ホテル予約の「一休.com」は約1000億円、同12月に中国のシートリップが買収した旅行料金比較サイトの英スカイスキャナーに至っては約2000億円もの値がついた。

海外航空券予約に強みを持ち、知名度もそこそこあるDeNAトラベルを12億円で買収したエボラブルアジアの手腕は驚くべきものだ。が、同社にはM&Aを有利に運ぶノウハウがあった。実は同社は約40社ものベンチャーに出資している。OTA以外への出資は純投資で、2018年3月には投資先の着物レンタル企業「和心」が東証マザーズに上場している。

同社の投資事業は順調で、同事業で得た利益をエアトリの広告費に回しているという。投資事業で培った選択眼と交渉力が、DeNAトラベルの格安買収につながった。DeNAトラベルは2018年3月期決算で19億円の営業赤字を抱えていた。そこが低価格買収のカギだったようだ。

DeNAトラベルを完全子会社化したことにより、エアトリは国内OTAのトップスリーに食い込んだ。さらに赤字だったDeNAトラベルは、クレジットカード会社や広告代理店向けの手数料など取引条件の好転、顧客の相互送客、人材の補完、システム投資の効率化などを通じて、経営統合からの4カ月間で営業黒字に転換した。買った方も、買われた方もプラスに働くM&Aになったのである。

従来の強みだった国内航空券予約に加えて、旧DeNAトラベルが得意とする海外航空券予約を強化した「エアトリ」(同社ホームページより)

M&A巧者の「次の一手」は?

とはいえ、OTAの競争は激しくなる一方だ。エアトリが強いといわれている国内航空券でも市場シェアは3%程度。米エクスペディアやシートリップなど海外の多国籍OTAが日本市場に触手を伸ばし、LINE<3938>やDMM.comなど異業種からのOTA参入もある。国内トップ3に入ったからといって、安穏とはしていられない。

エボラブルアジアは、さらに新たなM&Aを仕掛けて事業規模と知名度を拡大していくだろう。市場競争が激化すれば、単独で生き残れないOTAも出てくるはずだ。「M&A巧者」の同社が、どのような買収を進めていくのか。またも「あっと驚く」M&Aが待っているのかもしれない。

エボラブルアジアの沿革
2007年 5月 - 東京都渋谷区に旅キャピタルを設立
2007年 8月 - 子会社のDTSを設立
2007年11月 - 本社を東京都港区に移転
2008年 1月 - 第三種旅行業務登録、日本旅行業協会に正会員として入会
2009年 6月 - 第一種旅行業務登録
2011年 8月 - 「TRIP STAR」サービスを開始
2012年 3月 - EVOLABLE ASIA CO., LTD.(現連結子会社)をベトナム ホーチミン市に設立し、ITオフショア開発事業を始める。プライバシーマークの認証取得
2013年10月 - 社名をエボラブルアジアに変更
2014年 5月 - EVOLABLE ASIA CO., LTD.のハノイ拠点 をベトナム・ハノイ市に開設
2015年 7月 - EVOLABLE ASIA CO., LTD.のダナン拠点をベトナム・ダナン市に開設
2015年10月 - IATA公認旅行代理店認可を取得、EVOLABLE ASIA SOLUTION & BUSINESS CONSULTANCY COMPANY LIMITED(現連結子会社)をベトナム・ホーチミン市に設立
2016年 1月 - シリコンバレー拠点を米カリフォルニア州に開設
2016年3月31日 - 東京証券取引所マザーズ市場に上場
2017年3月31日 - 東京証券取引所第一部に市場変更
2018年5月31日 - DeNAトラベルの全株式を12億円で取得し、完全子会社化。6月1日に同社名をエアトリに変更

文:M&A online編集部

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。


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