トップ > インタビュー・事例 > インタビュー >「時間を買う」M&A戦略で目指す売上高100億円―造船業界の雄が描く地域密着型成長シナリオ

「時間を買う」M&A戦略で目指す売上高100億円―造船業界の雄が描く地域密着型成長シナリオ

alt
株式会社大晃ソレイユホールディングス 代表取締役社長 松本 章仁 氏

造船業界で58年の実績を持つ株式会社大晃ソレイユホールディングス(広島県尾道市)が、大正5年創業の製缶メーカー・株式会社石岡鉄工所(広島県福山市)をグループ会社化した。韓国・中国との激しい価格競争を生き抜いてきた松本章仁社長が、社長就任直後から温めてきたM&A戦略。「市場が被らず、シナジーが明確」という独自の選定基準で掴んだ理想的な案件は、わずか4か月半で成約に至った。製造業M&Aにおける「近さ」の重要性、内製化による競争優位の構築、そして売上高100億円への具体的ロードマップ、製造業経営者のための戦略的M&A活用術を松本社長が語る。

40年の国際競争が生んだ「時間を買う」発想

ー御社の事業内容と競争環境について教えてください。

松本 章仁 代表取締役社長(以下、松本):私たちは2025年11月で58年目を迎えます。長らく造船業界で板金加工を手がけてきました。厨房家具や防火扉といった板金製品を50年以上作り続けており、現在では板金が4割、製缶が3割、卸売が3割という事業構成です。

長年続けてきた自社事業を振り返る松本氏
長年続けてきた自社事業を振り返る松本氏

造船業界は40年前から韓国が国策として力を入れ、20年前からは中国が台頭してきました。常にコスト競争力を求められる厳しい業界です。私たちがこの荒波を乗り越えてこられたのは、潰れずに事業を多角化してきたからです。板金から製缶へ、そして2011年には中国・上海に貿易会社を設立して卸売業にも挑戦しました。造船市場の中でも異なる事業を展開することで、その時々の市況に応じて比率を変えながら、攻守の切り替えができる立ち位置を確保してきました。

ー社長就任と同時にM&A戦略を描いたそうですね。

松本:2022年1月の社長就任時から、買い手としてM&Aをするという選択肢がありました。造船業界で58年やってきて痛感したのは、自前の成長だけでは限界があるということです。韓国・中国との価格競争の中で、設備投資や人材採用、技術開発すべてを自社だけで賄うのは、時間もコストもかかりすぎる。

スピード感を持って事業を成長させ、スケールしていくためには、M&Aが大きな柱になると考えていました。特に製造業の場合、設備や技術、顧客基盤を一から構築するには10年、20年かかることもある。それをM&Aなら数カ月で実現できる。この「時間を買う」という発想が重要だと思っています。

構想自体は社長就任時から温めていましたが、焦らず、確実に準備を進めることが大切だと考えていました。実現に向けて動けるようになったのは約2年前からです。財務面の改善を進めながら、どういう会社と組めば最大のシナジーが生まれるか、じっくり戦略を練っていました。

M&A案件選定の3つの評価軸

ーM&A案件を選定する際の基準は何でしょうか?

松本:私が重視しているのは3つの評価軸です。第一に「市場の補完性」。同じ市場で競合している会社を買収しても、結局は価格競争に巻き込まれるだけです。私たちとマーケットが被らないのに、明確なシナジーが取れる企業を探していました。

第二に「技術と設備の独自性」。自社で一から構築するには時間とコストがかかりすぎるものを持っている企業。これが「時間を買う」ことの本質です。

第三に「地理的近接性」。製造業のM&Aでは「近さ」が極めて重要です。社員の交流がしやすく、現地現物で確認できる。朝行って昼には戻れる距離感が理想的です。遠隔地だとウェブ会議になってしまいますが、製造業はやはり目で見て、実際のものを確認することが大切ですから。

ー数ある案件の中から石岡鉄工所を選んだ決め手は。

松本:2025年3月にノンネームでメールをいただいて、すぐに「これだ」と思いました。それまでにも多くの案件を検討していましたが、明確なシナジーが描けなかったんです。石岡鉄工所は、私が挙げた3つの評価軸すべてを満たしていました。

まず市場の補完性。私たちは造船向けの板金・製缶、石岡鉄工所は陸上の大型製缶をメインにしている。具体的には、化学工業向け容器や第2種圧力容器、消防法タンクなど、私たちが手がけていない分野で確固たる実績を持っていました。

次に技術と設備の独自性。製造寸法が径3.5m×長さ15m超という道路輸送限界サイズの大型製品に対応でき、全国でも数少ない大型タンクの製作や、恐らく日本では石岡鉄工所しかやっていないであろう大径管曲がり矯正という技術と設備を持っている。

そして地理的近接性。同県内の福山市と尾道市という地理的な近さ。工業団地という立地は、物流コストの削減や大型製品の輸送において圧倒的な優位性があります。さらに、大正5年創業で100年超の歴史があり、技術の蓄積と顧客からの信頼も厚い。

株式会社石岡鉄工所 外観
株式会社石岡鉄工所 外観
大型製缶が行われる石岡鉄工所の工場内
大型製缶が行われる石岡鉄工所の工場内
タンクの溶接作業中の様子
タンクの溶接作業中の様子

内製化とネットワーク活用で構築する競争優位

ー具体的なシナジー効果について教えてください。

松本:シナジーは大きく3つのレイヤーで発現すると考えています。第一に「コストシナジー」。造船向けの置きタンクやサイレンサーなど、今まで外注していた仕事を石岡鉄工所に振ることができるようになりました。グループ内で完結できるので、外注費の削減とマージンの内部留保が可能になります。

物流コストも大幅に削減できています。石岡鉄工所は全て外部の運送会社に頼っていましたが、私たちはトラックを持っていますし、地理的にも近い。この物流ネットワークの共有だけでも相当なコスト削減効果があります。

第二に「納期シナジー」。外注先が忙しい時期でもグループ内で対応できるため、納期遵守・短縮が可能な体制になりました。これは顧客満足度の向上に直結します。

第三に「市場開拓シナジー」。石岡鉄工所は陸上の化学プラント系の仕事もできます。既存の化学プラント系のお客様の別の商材に挑戦したり、造船向けの大型製缶にも取り組んでいく予定です。私たちだけではできなかった仕事が彼らの設備でできるようになり、彼らが不得意だった板金や中板の製缶も、私たちの協力会社ネットワークで対応できるようになりました。

ーグループ化による競争優位性をどう捉えていますか?

松本:今回のM&Aによって、「製缶・プレス・溶接」の専門技術と当社の経営資源が融合しました。お客様にワンストップでサービスを提供できる体制を作ることが、最大の競争優位性です。ここに任せておけば大丈夫という信頼を得られる企業グループを目指しています。

板金・製缶・プレスという製造の基本技術を押さえることで、造船業界の景気の波に左右されにくい、安定した収益構造を構築できます。石岡鉄工所の製缶事業が厳しい状況でも利益を確保している一方、当社の船舶業界が好調という状況です。今後、両社の景気の波を補い合う体制を構築し、グループ全体の財務安定性を高めていきます。

「人」を起点にした統合プロセス

ー統合後の組織づくりで最も重視していることは。

松本:M&Aをやってみて分かったのは、数字も大切ですが、それ以上に「人」の部分が重要だということです。製造業で働く人たちは、ものづくりにプライドを持っています。私は商売人的な発想で「これとこれを組み合わせて売る」と考えますが、現場の人たちは「いかに良いものを作るか」に興味があるんです。

最初は「人」の部分で分かり合い、その後で数字の共有化を図る。この順番が大切だと学びました。成約後、従業員の皆さんがかなり動揺していたので、翌日すぐに一人一人個別面談を行いました。問題を感じたらすぐに行動へ移す。このスピード感が信頼構築には不可欠です。

ー人材交流と技術継承の具体的な取り組みは。

松本:板金・製缶業界は慢性的な人手不足です。私たちは過去2年間で28人の日本人を採用しましたが、石岡鉄工所はほとんど採用できていませんでした。このグループの採用力を活かすことが、大きなメリットの一つです。

現在、管理・製造部署の人材を石岡鉄工所に送り、工場運営について話し合っています。逆に石岡鉄工所の工場長や職人にも当社に来てもらい、互いのやり方を学び合う人的交流を進めています。今月末からは特定技能の外国人スタッフも派遣する予定です。

グループ全体として人材を採用し、石岡鉄工所の生産性向上につなげていく。同時に、石岡鉄工所が持つ高度な溶接・製缶技術を、グループ内で継承していく仕組みを構築しています。

地域密着型M&A戦略で描く売上高100億円への道筋

ー今後のM&A戦略における具体的な展開プランは。

松本:まずは中国地方など近接地域で規模50億円程度まで固めていきます。地理的に近いエリアで複数の企業をグループ化することで、人材交流、物流ネットワークの共有、技術の相互補完といったシナジーを最大化できます。

今後の成長戦略について語る松本氏
今後の成長戦略について語る松本氏

50億円規模になったら、次は関西、関東、九州へとエリアを広げていく計画です。各エリアに拠点を持つことで、全国のお客様に対応できる体制を構築します。ただし、拠点間の距離が離れても、各エリア内では「朝行って昼には戻れる」距離感を維持することが重要です。

段階的に地域を広げていくことで、各エリアでの管理体制を確立しながら成長していきます。これが私の描く地域密着型M&A戦略です。

ー次なるM&Aのターゲット企業の条件は。

松本:石岡鉄工所にはプレス事業もありますが、さらに強化していきたいと考えています。もしプレス専門の会社があれば、面白いシナジーが見込めるのではないでしょうか。板金・製缶・プレスという製造の基本技術を押さえることで、お客様により幅広い価値を提供できます。

また、石岡鉄工所との統合で得た知見を活かし、「市場が被らず、シナジーが明確で、地理的に近い」という3つの評価軸を満たす企業を引き続き探していきます。

ー売上高100億円達成の具体的なタイムラインは。

松本:7年なのか、10年なのかは分かりませんが、地域に貢献できる会社として、その目標に向かって進んでいきます。重要なのは、数字だけでなく、社員の成長も促しながら、内容の伴った成長を目指すことです。

M&Aを繰り返すだけでは、ただの寄せ集めになってしまいます。各企業の強みを活かしながら、グループとしてのシナジーを最大化し、お客様に提供できる価値を高めていく。この質的な成長と量的な成長を両立させることが、持続可能な100億円企業への道筋だと考えています。

譲渡企業が語る決断の背景

ー石岡社長はなぜM&Aを選択されたのですか

株式会社石岡鉄工所 石岡 洋三 顧問(前代表取締役):1998年に父の会社に入った時、会社は数億円規模の負債を抱えていました。ある日突然、8000万円の連帯保証人のサインを求められ、「会社に何かあったら自分も終わる」と現実として迫ってきました。そこから必死に経営改革を進め、薄利多売から高付加価値事業へと転換。借入金を完済し、純資産約2億3000万円、時価純資産で約2億9500万円の健全な財務体質を実現しました。

石岡鉄工所の製缶技術について説明する 株式会社石岡鉄工所 顧問(前代表取締役) 石岡 洋三 氏
石岡鉄工所の製缶技術について説明する 株式会社石岡鉄工所 顧問(前代表取締役) 石岡 洋三 氏

ただ、すべてを一人で背負う重圧は限界でした。営業から見積もり、設計、スケジュール管理まで、ほぼ一人でこなしていました。職人不足も深刻で、もし今私が倒れたら会社は回らなくなる。経営状態が良好な今M&Aをすることが一番の得策だと判断しました。

大晃ソレイユホールディングスを紹介された当時を笑顔で振り返る 石岡氏
大晃ソレイユホールディングスを紹介された当時を笑顔で振り返る 石岡氏

大晃ソレイユさんを紹介された時、直感で「めっちゃいいじゃん!」と思いました。私たちは陸の仕事、大晃ソレイユさんは海の仕事で、きれいに住み分けができる。すべてがかみ合っていました。

製造業経営者への戦略的M&A活用のメッセージ

ーM&Aを検討している製造業経営者へのメッセージをお願いします。

松本:M&Aを通じて、経営者自身がいろんな視点や見方を学べます。自分自身の成長につながる貴重な機会だと思います。

特に製造業では、設備投資、技術開発、人材育成、顧客基盤の構築。これらすべてを自前で行うには10年、20年かかるものを、M&Aなら数カ月で実現できる。「時間を買う」という発想で戦略的に活用することで、大きな飛躍が可能になると確信しています。

石岡:決断するなら早く動くことです。追い込まれてからでは遅い。私も「うちの会社なんて売れるわけがない」と思っていました。でも、スピーディーに動いたから、早く進められたんです。相手選びで妥協せず、でもまず動くこと。それが100年企業の、次の100年への第一歩になるはずです。

本案件はストライク<6196>が支援した。

大晃ソレイユホールディングス 松本 章仁 氏(中央)とM&Aを仲介した株式会社ストライクの板東 伊吹(左)、矢島 佑哉(右)
大晃ソレイユホールディングス 松本 章仁 氏(中央)とM&Aを仲介した株式会社ストライクの板東 伊吹(左)、矢島 佑哉(右)
石岡鉄工所 石岡 洋三 氏(中央)とM&Aを仲介した株式会社ストライクの板東 伊吹(左)、矢島 佑哉(右)
石岡鉄工所 石岡 洋三 氏(中央)とM&Aを仲介した株式会社ストライクの板東 伊吹(左)、矢島 佑哉(右)

NEXT STORY

ストライクのM&Aプラットフォーム 「SMART」

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5

ストライクのM&Aプラットフォーム 「SMART」