上場企業の2020年3月期決算は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、業績に急ブレーキがかかった。そうした中、例年以上に目立つのが巨額赤字への転落だ。ソフトバンクグループ(SBG)の9615億円を筆頭に、日産自動車、日本製鉄などが続き、1000億円を超える最終赤字は7社に及ぶ。
ソフトバンクG、投資事業でつまづく
3月期決算の上場企業は約2400社。今年は新型コロナ感染の影響で決算業務に遅れが生じる異例の事態となったものの、大部分は5月中に決算発表を終えた。ただ、ジャパンディスプレイなど一部は6月中にずれ込んでいる。
SBGの売上高は携帯電話事業の堅調などで1.5%増の6兆1850億円を確保。しかし、運用規模約10兆円の投資事業が2兆円近い営業損失を抱えた。新型コロナの世界的な感染拡大で投資先の業績が悪化し、SBG全体として過去最大となる9615億円の最終赤字に沈んだ。
2019年3月期(1兆4111億円の黒字)に比べた減益幅は実に2兆4000億円近くにのぼり、真っ逆さまに急降下した形だ。投資事業のビジネスモデルをどう軌道修正するかが注目される。
「ゴーンショック」に揺れる日産自動車は6712億円の最終赤字。最終赤字はリーマンショック後の2009年3月期以来11年ぶりだが、その額は経営危機の最中だった20年前(2000年3月期、6843億円)に匹敵し、問題の深刻さが浮き彫りになった。
4月時点で850億~950億円程度の最終赤字を予想していたが、世界的な販売の落ち込みに対応し、工場の減損損失や閉鎖費用などの計上に迫られた結果、7倍に膨らんだのだ。今後、世界で生産能力を2割削減する。「ルノー・日産・三菱連合」の一角、三菱自動車も3年ぶりに最終赤字となった。
鉄鋼・石油元売りは大手3社がそろって赤字
東芝は米国での液化天然ガス(LNG)事業の売却損などで1146億円の最終赤字に転落。その前の期は半導体子会社の東芝メモリ(現キオクシア)の売却益で最終損益は1兆円超の黒字だった。最終赤字は2017年3月期に米原発事業の巨額損失で国内製造業として過去最大の9656億円を計上して以来、3年ぶりだ。
中国企業との競争激化や鋼材需要減など厳しい環境が続く鉄鋼業界では大手3社がそろって巨額赤字に転じた。首位の日本製鉄は高炉4基の休止を中心とする生産縮小に伴う減損損失などを計上し、最終赤字は過去最大の4315億円となり、2位のJFEホールディングスも2000億円近くに達した。

歴史的な原油安に直面する石油元売り3社も同様だ。最大手、JXTGホールディングスの最終損益は前期から5000億円悪化し、1879億円の赤字となった。
大手商社で唯一、最終赤字は丸紅だ。石油・ガス、穀物、銅鉱山関連で減損損失の計上に追い込まれ、1974億円の最終赤字に陥った。
2019年3月期に1000億円以上の最終赤字になった4社中、千代田化工建設、川崎汽船、野村ホールディングスは20年3月期に黒字に戻した。残る1社はジャパンディスプレイだが、6月下旬に予定する決算発表では6年連続の最終赤字が予想されている。
三井E&S、レオパレス、KYBは赤字幅拡大
経営再建中の三井E&Sホールディングス、レオパレス21はいずれも800億円を超える最終赤字となり、その赤字幅は前期よりも膨らんだ。レオパレスはアパート事業での施工不良問題で入居率が悪化したうえ、補修費用が拡大している。KYBも免震・制振装置の不正データ問題の後遺症が続き、赤字幅は618億円に倍増した。
ゲーム事業に関するのれんの減損損失計上を中心に最終赤字が491億円に上ったのはDeNAだ。直近の業界動向や事業環境を踏まえ、ゲーム事業全般の事業計画を見直した結果だという。
百貨店では三越伊勢丹ホールディングス、エイチ・ツー・オーリテイリングが100億円を超える最終赤字に。三越伊勢丹HDは伊勢丹相模原、伊勢丹府中、新潟三越などの大型店舗の営業を終了し、大規模構造改革にめどをつけたとしている。
青山商事の最終赤字は169億円。ビジネスウエアの苦戦に加え、カジュアルブランド「アメリカンイーグル」の事業整理損、子会社で展開する靴修理・合鍵専門店「ミスターミニット」ののれんの減損処理を合わせて140億円近い特別損失を計上した。
各社は2021年3月期に黒字転換を目指している。ただ、コロナ感染の収束が見通せない中、米中貿易摩擦の激化とあいまって世界経済の先行きは不透明感が一層増しており、業績立て直しに向けて試練が待ち構えている。
◎主な企業の2020年3月期最終赤字と前期の最終利益(単位は億円)
社名 | 最終赤字 | 19/3期実績 (▲は赤字) |
ソフトバンクG | 9615 | 1兆4111 |
日産自動車 | 6712 | 3191 |
日本製鉄 | 4315 | 2511 |
JFE HD | 1977 | 1635 |
丸紅 | 1974 | 2308 |
JXTG HD | 1879 | 3223 |
東芝 | 1146 | 1兆132 |
三井E&S HD | 862 | ▲695 |
レオパレス21 | 802 | ▲686 |
三菱マテリアル | 728 | 12 |
神戸製鋼所 | 680 | 359 |
KYB | 618 | ▲247 |
DeNA | 491 | 127 |
フジクラ | 385 | 14 |
日立金属 | 376 | 313 |
富士石油 | 290 | 28 |
コスモエネルギーHD | 281 | 531 |
三菱自動車 | 257 | 1328 |
出光興産 | 229 | 814 |
日本板硝子 | 189 | 132 |
東邦亜鉛 | 183 | ▲25 |
名村造船所 | 180 | 6 |
青山商事 | 169 | 57 |
シチズン時計 | 166 | 133 |
阪和興業 | 136 | 139 |
エイチ・ツー・オーリテイリング | 131 | 21 |
ニプロ | 122 | 121 |
三越伊勢丹HD | 111 | 134 |
双葉電子工業 | 101 | ▲160 |
文:M&A Online編集部