しかし、スクイーズアウトは会社の「言い値」で強制的に買い取れるわけではない。「適正価格」での買い取りが義務付けられている。最終的に7450円で国の保有株を買い戻すことが分かっているのだから、それ以上の株価でなければ「適正価格」と認められないだろう。
市場価格をベースに「適正価格」を算定する方法もあるが、スクイーズアウトの実行が見えてくれば市場価格も高騰する。TOBが発表され、新生銀株が9月13日に2030円の高値をつけたのと同じ現象だ。そもそも7450円という「ゴール価格」が見えているため、2000円という3分の1以下の価格でTOBが成立するかどうかすら不透明だ。
こうした先の見えないTOBが、SBIにメリットをもたらすのかどうかも分からない。SBIは地方銀行再編を主導しようとしており、その中核銀行として新生銀の買収を目指している。が、新生銀は個人・法人ともに顧客層が薄く、「看板」以外の役割は期待できそうにない。地銀とのシナジー(相乗)効果は限定的だろう。
そんな新生銀に対して最大1164億円のTOBを実施し、さらには約3500億円の公的資金返済の責任を背負い込むことになる。SBIにとってはリスクの高い買収といえる。
新生銀も最初の投資ファンドによる買収で「痛い目」にあっている。現在の厳しい経営環境も、投資ファンドが送り込んできた初期の経営者による目先の利益追求と経営方針の二転三転が大きく影響している。創業当時の「トラウマ」が、SBIの高圧的なTOBに対する強い拒否反応を引き起こしているのかもしれない。
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