とはいえSBIが新生銀をTOBで買収したとしても、公的資金を完済できるかどうかは不透明だ。そもそも新生銀が四苦八苦してもホワイトナイトを探し出せないのは、同行の将来性が見いだせないから。SBIが提示したTOB価格の1株2000円が「高すぎるくらい」(北尾社長)なのは事実と言える。
確かにTOB発表前営業日の終値だった1440円を38.9%上回る2000円というTOB価格は安くない。とはいえ普通株に転換された公的資金を完済するのに必要な株価は7450円。SBIが買収して経営改革に乗り出したとしても、新生銀株にそこまでの値上がりを期待できる根拠がない。
完済の可能性があるとすれば、TOB成立後にSBIと国を合わせた持ち株比率が全体の3分の2を超えた時点で自己株買いに乗り出し、概ね9割に達した時点でスクイーズアウトにより少数株主から強制的に株式を買い上げて上場廃止。国には約3500億円のキャッシュを支払って公的資金を完済するという方法だ。
新生銀が現時点で国の保有株と引き換えに、直接約3500億円のキャッシュを支払って完済できないのは「株主平等の原則」のため。政府保有の普通株と引き換えに約3500億円のキャッシュを返済すれば、新生銀には政府と同じ株価(1株7450円)で一般株主の保有株式を買い取る義務が生じるからだ。
仮に全株主が買い取りを求めた場合、約1兆6000億円が必要になる。優先株との引き換えで約3500億円を返済しても、普通株を持つ株主から同じ株価で引き取る義務はない。だから、新生銀と同様の状況にあったあおぞら銀は公的資金を完済できたのだ。
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