緊迫が続くウクライナ情勢だが、同国と日本とのM&A取引はあるのだろうか。M&A Online編集部が上場企業の適時開示情報をもとに調べたところ、過去10年間で該当する案件は見当たらなかった。一方、実力行使の構えを見せる隣国ロシアと日本との間では少なくとも6件のM&Aが確認できた。
2021年の上場企業によるM&A件数(適時開示ベース)は前年比28件増の877件で、内訳は国内M&Aが同16件増の717件、海外M&Aが同12件増の160件。コロナ前の2019年と比べて、国内M&Aは60件の大幅増に対し、海外M&Aは36件下回り、回復途上にある。
海外M&Aを国・地域別にみると、米国が全体の約3割を占め、中国、シンガポール、英国、豪州などが続く。こうした中、存在感が乏しいのがロシア、とりわけ旧ソ連邦を構成した諸国だ。
M&Aに該当する案件を調べたところ、現在渦中にあるウクライナの企業が「買い手」「売り手」「ターゲット」のいずれかにあてはまるものはゼロだった。
直接的ではないが、米IT企業のグローバルロジックを1兆円超で買収(2021年7月)し、ウクライナに足場を築いたのは日立製作所。グローバルロジックは世界14カ国で約2万人以上の従業員のうち、ウクライナにはキエフ、ハリコフ、リヴィア(2拠点)、ムィコラーイフの主要都市に計5つの開発拠点を置き、約7200人を擁する。
帝国データバンクによると、ウクライナに進出する日本企業は57社(2022年1月時点)。製造業が28社と最も多く全体の半数を占め、次いで卸売業が16社、近年、IT産業の発達でソフトウエア会社の進出も活発化しつつあるという。
他の旧ソ連邦ではバルト3国の一つ、リトアニアで1件のM&Aがあった。2017年、ミマキエンジニアリングが同国VEIKA社からデジタルインク事業などを買収した。ミマキエンジは現地子会社を通じて事業を展開中だ。
一方、ロシア企業とのM&Aも決して多くはない(一覧表)。なかでも同国との過去最大の案件を手がけたのはJT(日本たばこ産業)。2018年にロシア第4位のたばこメーカー、ドンスコイ・タバックを約1900億円で買収した。
今年1月には、戸建分譲大手の飯田グループホールディングスがロシア最大級の林産企業グループ「ロシア・フォレスト・プロダクツ(RFP)」を約600億円で傘下に収めた。RFPはロシア極東のハバロフスク地方に約400万ヘクタールと九州とほぼ同じ広さの林区を持つ。
◎日本企業とロシア企業との主なM&A(HDはホールディングス)
2021年 | 飯田グループHD、林産グループ「ロシア・フォレスト・プロダクツ」を買収 |
2020年 | フェローテックHD、超小型サーモモジュール製造のRMTを買収 |
2018年 | JT、たばこメーカーのドンスコイ・タバックを買収 |
2017年 | SBIホールディングス、商業銀行YAR Bank(現SBI Bank)を買収 |
2015年 | 日本水産、インドネシアのエビ養殖子会社をロシア水産企業に売却 |
2014年 | サトーHD、ラベル販売会社Okilを買収 |
文:M&A Online編集部