「新たな夢」を持てば経営への執着を解消できる

赤福(三重県伊勢市)や大塚家具<8186>などで発生した「お家騒動」は、オーナーである前経営者が大量の自社株を持ち、影響力を残していることが要因になっている。オーナーである創業者一族がキリンへ株式譲渡したことで、池森会長は自らの手で「お家騒動」の芽を摘んだといえるだろう。自社の経営を長期安定させるには不可欠なプロセスとはいえ、オーナーにとっては簡単に決断できることではない。

池森会長はなぜ、こうも簡単にファンケルを手放せたのか?そこにはファンケルとは別の、新たな目標があった。それはベンチャー支援である。ベンチャーとしてファンケルを立ち上げた池森会長は、早くから起業支援に高い関心を持っていた。2018年11月には池森会長が「若手経営者を支援してきたい」と、池森ベンチャーサポート合同会社(東京都港区)を設立している。

M&A仲介業者によると「一般にオーナー経営者は60歳では事業承継など眼中にないが、70歳を迎えると真剣に考え始める。80歳を過ぎると事業継承をする気力を失い、経営に執着する」という。そうなれば企業は80歳を過ぎたオーナー経営者と、文字通り「運命を共にする」ことになる。

池森会長は82歳。ファンケルの経営に執着しないのは、新たな目標があったからこそ。事業承継の出口を「楽隠居」ではなく「新たな目標への挑戦」に設定することで、経営のスムーズなバトンタッチに役立つだろう。

ファンケルの強みであるサプリメントでシナジー効果が高いにもかかわらず、本業が重ならないため経営の主導権を保てるキリンを譲渡先としたパートナーの「選択眼」も見事というしかない。売上高1920億円の大企業・ファンケルの事業承継は、中小企業にとってもモデルケースになる。

ファンケルの主力事業であるサプリメントは、キリンとのシナジー効果も高い(同社ホームページより)

文:M&A online編集部