1,000円、3タップで株式投資ができるスマホ証券ワンタップバイ(本社:東京都港区)が、苦境に追い込まれています。創業者の林和人氏が代表取締役社長を退任し、新たに内山昌秋氏が就任しました。
2016年にサービスを開始し、スマホ証券の先駆けとして業界を牽引した同社ですが、「スマートプラス」や「FOLIO」などが参入して競争が激化。ワンタップバイは、対抗策として2018年6月に手数料月額980円固定プランを投入しました。大々的なキャンペーンを行いましたが、期待するほどの収益は得られず、大幅な口座獲得にもつながりませんでした。
手数料ゼロ円のサービスの登場や、クレジットカードのおつりで投資するシステムが誕生するなど、スマホ証券市場は成熟化して魅力を失いつつあるのかもしれません。
ワンタップバイは、2017年にテレビコマーシャルで一般に認知を広げ、1年間で8万8000口座を新規で開設していました。それにより、2017年3月期に1万9000ほどだった口座数が、翌年には10万を超えたのです。
更なる口座数獲得のため、取引するごとに0.5%の手数料がかかっていたサービスに、月額980円の固定プランを追加。ユーザーの負担が軽減され、口座拡大に弾みがつきそうに見えます。
しかし、実際に増えた口座数は4万ほど。販管費はかさんで、赤字幅が拡大してしまいます。
決算期 | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 |
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営業収益 | 4300万円 | 1億6400万円 | 2億3600万円 |
経常損益 | △8億5400万円 | △15億6800万円 | △15億8000万円 |
口座数 | 19,030 | 107,399 | 145,000 |
1口座あたりの年間売上 | 2,259円 | 1,527円 | 1,627円 |
※決算報告書より筆者作成
注目したいのは、1口座あたりの売上です。口座数が少なかった2016年ごろまでは、ユーザーが活発に取引をしていたので、1口座あたりの売上は2,000円を超えていました。一気に口座が増えた2018年3月期は1,500円台まで低下しています。
これは口座を開設したものの、取引が行われなかったためと考えられます。そうした事情を踏まえ、市場に投入したのが月額980円の固定プランです。固定サービスは、サブスクリプションと同じです。ストック型の資金が毎月流入し、1口座あたりの売上が押し上げられるはずでした。しかし、1口座あたりの売上は100円ほどしか変わりませんでした。
同社は、2018年3月期に広告宣伝費として5億5600万円を計上しています。結果として9万口座近くを獲得しました。
2019年3月期は3億4500万円を広告宣伝費に投じました。しかし、口座は4万ほどしか獲得できず、口座あたりの単価を伸ばすこともできなかったのです。今回の社長交代は、こうした事情が反映されたものと考えられます。