日本電産<6594>は創業者の永守重信会長兼社長(73)が社長を外れ、吉本浩之副社長(50)が社長に昇格する人事を決めた。1973年に発足した日本電産は永守氏の強力なリーダーシップと巧みなM&A戦略によって精密小型モーターの世界的企業に躍進した。2030年を目標にグループで売上高10兆円構想も打ち上げた。そんなカリスマ経営者が後継者に見込んだ吉本新社長とは。

吉本 浩之次期社長(日本電産のリリースより)

吉本次期社長、3年前にスカウト

「自分が50歳の時と同等以上の仕事をしている人を任命した」。永守氏は二回り近く年下の吉本氏の仕事ぶりをこう評価する。吉本氏が日本電産に入社したのはわずか3年前の2015年。前の日産自動車<7201>勤務時代に海外子会社を再建した実績に目をつけた永守氏がスカウトした。永守氏の頭の中ではこの時、すでに後継候補と思い描いていたのかもしれない。

 まず、自動車部品製造の日本電産トーソクの社長を託され、伸び悩んでいた同社の経営を1年ほどで立て直しした。翌2016年には本体の日本電産の副社長に就任し、自動車メーカー相手の車載事業本部を任された。

 日本電産は世界トップシェアを持つHDD(外部記憶装置)用モーターの需要減に伴い、EV(電気自動車)の普及などで市場拡大が見込まれる車載用モーターに軸足をシフトしつつある。事業構造が変化する中、自動車業界に精通する吉本氏に白羽の矢が立ったのは当然の成り行きともいえる。

 吉本氏は1991年に大阪大学人間科学部卒業後、日商岩井<2768>(現双日)に入社し、自動車部門などで経験を積んだ。2008年に日産自動車系部品メーカーのカルソニックカンセイに転身、その後、2012年に日産自動車に移り、タイの子会社再建にあたった。

 現在、日本電産の取締役は9人(うち2人が社外取締役)。このメンバーには、元シャープ<6753>社長の片山幹雄氏が副会長兼CTO(最高技術責任者)として名を連ねる。片山氏は2014年に日本電産入りし、永守氏の後継候補として一時取りざたされたこともある。

 吉本副社長は6月の株主総会後に社長に正式就任する。会長となる永守氏はCEO(最高経営責任者)を引き続き務める。

「まず 仕事の3割を任せる] 禅譲にはほど遠い

「75歳までに社長を降りる」とかねて公言してきた永守氏だけに、今回のバトンタッチは順当なタイミング。もっとも、永守氏は「(新社長に)まず仕事の3割を任せ、2~3年内に5割以上を任せたい」との考え方を示し、禅譲にはほど遠い。

 戦後、京都でベンチャー企業として産声を上げ、世界的企業になった筆頭格は京セラ<6971>(創業は1959年)だ。売上高は1兆4000億円超と、日本電産の上を行く。その創業者の稲盛和夫氏(86、現名誉顧問)はカリスマ経営者の“先輩”格だが、同氏が社長を退任したのは53歳の時で、その点では好対照といえよう。

 永守氏は28歳で日本電産を創業し、一代で今や売上高1兆円(1兆1993億円、2017年3月期実績)を超える大メーカーに導いた。M&A巧者として知られ、国内外で50件を超える企業買収を行い、業容を拡大してきた。自動車分野にとどまらず、ロボットやAI(人工知能)など成長領域での投資を活発化しており、2030年を見据えて売上高10兆円という野心的な構想を描く。こうした10年単位の長期目標の実現は若い吉本次期社長に託されることになる。

文:M&A Online編集部