2015年に不正会計が明るみになってから連日の不名誉な報道により、世界中のステークホルダーからの信頼を失墜しつつあった東芝<6502>。ようやく心機一転企業内のガバナンス体制を改変していこうとしていた2016年12月27日、東芝は、2017年3月期の決算において原発事業を営む同社内のインフラ事業において巨額の損失を計上する可能性があることを公表した。

債務超過有価証券報告書を提出した東芝

 年が明け、予定より大幅に遅れて提出された有価証券報告書内には、約2,700億円もの債務超過となっている東芝の姿が映し出されていた。

 この債務超過を解消するべく、東芝経営陣は、東芝内部でも堅調に利益を生み出しているメモリ事業を「東芝メモリ株式会社(以下、東芝メモリ)」として2017年4月1日で分社化し、当該株式の一部売却を検討し始めた。

 当初は、経営権は東芝が保持したままマイノリティ出資を募る予定であったが、ウェスチングハウスのチャプター11(米国の連邦倒産法第11条の通称)の適用を皮切りに、次々と株式買取請求や損害賠償請求の波が押し寄せ、総額1兆円近い損害賠償金等を支払わなければならない可能性が浮上した。これにより、これら賠償金の支払原資を創出するために過半数の売却、最終的には全株式の売却を検討する状況まで追い込まれてしまった。

合弁相手のウェスタンデジタル(WD)とは食い違いが

 いま東芝メモリに出資者として名乗り出ている中で、東芝が優先的に交渉を進めると明言しているのが、アメリカの投資会社であるベインキャピタル、韓国の財閥系企業であるSKハイニックス、産業革新機構、日本政策投資銀行らの日米韓連合である。

 東芝としてはこれらの会社に売却したい意向を示しており、東芝メモリの全株式を売却する計画を進めている段階にあるが、それを阻んでいるのがアメリカのハードディスクドライブやフラッシュメモリ製品を製造するウェスタンデジタル(以下、WD)である。

 このWDと東芝の関係性については意外と知られていないと思うが、もともと東芝とWDは直接的な資本関係等にあるわけではなく、あくまでWDの子会社であるアメリカのサンディスク(以下、SD)と東芝が合弁でメモリ事業を実施している。合弁事業といえども、SDのメモリ事業は脆弱であり、実際の製造オペレーションはほとんど東芝に依存しているようだ。そのため、東芝のメモリが売却されて合弁関係が解消されてしまった場合、SDの業績は大幅に悪化し、親会社であるWDは膨大な損失計上を余儀無くされる可能性もある。これを防ぐために、WDはICC(国際商業会議所)に対して東芝メモリ売却の差し止め請求を申し立てていると思われる。

 日米韓連合として参画する産業革新機構、日本政策投資銀行は、趣旨の要件としてWDとの係争解決を挙げている。これにより更に売却交渉は難航しているのだが、ここにきてベインキャピタルが出資額の増額および産業革新機構、日本政策投資銀行の出資分を肩がわりする提案を出してきたため、やはり東芝としては、日米韓連合に売却したいという意向が強まってきているのではないだろうか。

 しかし、WDとの係争が解決しないまま日米韓連合に売却してしまった場合、WDの差し止めが認められて当該売却が無効になるような法的リスクも孕んでいることから、WDサイドに売却するのが最も安全だとする声もあがっている。

業績好調な東芝メモリを本当に売却すべきか?

 しかし、そもそも東芝メモリは本当に売却すべきなのだろうか。東芝の最新の決算である2017年6月期の四半期報告書には、「メモリ、デバイス他が大幅な増収に、HDDも増収になった結果、部門全体として大幅な増収になりました。」との記載がある。

東芝 有価証券報告書2017年度 - 第179期第1四半期
東芝 有価証券報告書2017年度 - 第179期第1四半期 P.11より

 実際にセグメント別の業績を見てみると、全社の営業利益合計が967億円であるなかで、東芝メモリが属するストレージ&デバイスソリューションのセグメントの営業利益は1,043億円なのである。これが、他のセグメントで軒並み赤字となっているなかで、メモリ事業が一際好調な業績を収めていることは一目瞭然であろう。

東芝 有価証券報告書2017年度 - 第179期 第1四半期
東芝 有価証券報告書2017年度 - 第179期第1四半期 P.11より

 東芝としては、いかに損害賠償請求に応じるために資金が必要であるとしても、一時的な資金需要のために稼ぎ頭のメモリ事業を売りたいはずがない。長期的な目線に立ってみれば、中核の事業を失ったことによる損失の方が計り知れないので、東芝メモリは東芝グループ内に残したまま企業再建に集中し、長い年月をかけて信頼を取り戻すことが急務であることは、よほど無能な経営者でない限り理解しているはずである。

 もちろん、売却をしない場合には、押し寄せる株式買取請求と損害賠償請求に応えることができないかもしれないし、2期連続の債務超過は免れず上場廃止になる。ただ、その場合は最後の手段として会社更生法の適用が残されているのだ。これで債務を整理して、きちんと再建された後にまた元の東芝に戻っていくことができると考えられる。

再建が進まない理由とは

 しかし、残念ながら東芝がこれをできないのには理由がある。米国政府は、チャプター11を適用したウェスチング・ハウスに対して83億ドルの融資保証を行なっている。これはつまり、米国政府がウェスチング・ハウスの債権者に債務保証を負っているということである。東芝も同社に対してほぼ同額の債務保証を負っているため、ウェスチング・ハウスが支払うことができなかった債務は東芝が変わりに債権者に支払うことになっているが、仮に東芝が会社更生法を適用してしまった場合、米国政府がウェスチング・ハウスの債務を肩代わりしなければならなくなるのだ。

 ところが、日本政府がウェスチング・ハウスのチャプター11申請について米国側の承認を求めるべく米国政府へ直接交渉に行った際、米国側から、83億ドルの融資保証の支払いが米国政府から実行されることのないという条件付きで、チャプター11の適用を認められたのである。

 これが何を意味するかというと、東芝が倒産してしまった場合には、日本政府と米国政府感の約束が破られることになってしまうのである。そのため、東芝の経営陣は日本政府の人間から会社更生法の適用はやめるように言われている可能性があるのである。東芝サイドも、さすがに国に逆らうことはできないであろうから、やむなくメモリ事業の売却先を下がることに集中するしか他に手段がなくなっていることが考えられる。

 東芝としては、東芝メモリを売却すべきではないことがわかっているが、売却せざるを得ない状況に追い込まれているというジレンマに遭っている。そうなると、売却の是非を議論する以前に東芝メモリの売却は免れないことなのであり、あとは売却先をどこにすべきかという議論をせざるを得なくなる。そして、メモリ事業の売却・再建後に同事業を東芝が買い戻す予定があるのであれば、法的リスクを恐れてメモリ事業の脆弱なWDサイドに売却するのは得策ではなく、事業再生のプロ集団である日米韓連合に任せるべきであることは明白である。

 いずれにせよ、WDとの係争を早期に解決できるかが、東芝としての喫緊の課題であることには間違いない。

文:M&A Online編集部