『財閥のマネジメント史 誕生からバブル崩壊、令和まで』武藤泰明著、日本経済新聞出版刊
日本の産業社会において、巨大企業の4分の1は今も財閥系企業が占めているという(売上高上位50社。銀行を除く)。財閥誕生の幕末から令和までの日本経営史を「財閥」という切り口でみることで、日本企業の本質が見えてくるのではないかと著者は考え、1冊の本にまとめた。
著者は財閥系の企業集団が持つ「サラリーマン経営者の親睦」という特性が日本企業固有のものであり、強みのひとつとしてもっと評価されてもよいのではないかと提起している。
ーーなぜ3大財閥(三井、三菱、住友)は総合商社として生き残ったのか。
ーー日本企業は競争が嫌いなのでは?
その過程でわかったのが、現代企業において重要な経営資源のひとつである組織能力を企業再編によって「他社に移転することができる」ーもっと簡単に言えば「組織能力は移転することができる」のだという。
筆者は本書の結論として「企業集団が持つ親睦機能が、能力移転と事業再編を促進する、あるいは円滑に進めるのではないか」と語っている。M&Aに関する制度が整い、M&Aや再編、事業再編で会社が強くなる時代になったことは誰もが認めるところだろう。
一方で、M&A件数が増えているものの、成功確率が高まらないという課題もある。その原因に「PMI(買収後の統合作業)」の難しさをあげる実務家や学者が多いが、PMIの本質は「どうやって仲良くしようか」という点にある。M&Aや再編による能力移転は、買収する側の会社がされる側の能力から学ぶことで実現されるのであれば、当事者同士が互いに仲良くなければならない。
経済合理性の文化の下、統合作業に手間取る企業が圧倒的に多い他国に比べ、財閥流の「争わず」「親睦を深め」ながら再編を進めることが出来るメリットを生かすことができるなら、それは日本企業の強みとなる。
ただし筆者はM&Aブームだけではダメだと指摘する。「金融投資家しかいない世界では、産業のイノベーションや進化は生まれません。会社と会社、事業と事業をくっつけたり離したりするだけです。(中略)誰かがイノベーションを起こしてくれなければ、誰も投資できません。企業再編もできないんです。」(2022年3月15日発売)
文:M&A Online編集部