「金融庁戦記」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「金融庁戦記」 大鹿靖明著 講談社刊

異色の金融官僚といわれた佐々木清隆氏の企業監視官時代の活躍を追う経済犯罪ドキュメンタリー。佐々木氏は「ヒルズ族」の摘発や東芝の不正経理問題など、社会を騒然とさせた事件の捜査や摘発の最前線に立った。

金融庁戦記

ジムで鍛えた赤銅色の分厚い胸板を派手なストライプ柄のシャツとピンクやパープルのネクタイで包み、トップを残して短く刈り込んだ髪型から「ジローラモ」と呼ばれた、官僚には似つかわしくない容貌…冒頭の紹介だけで「只者ではない」ことがうかがえる人物だ。

営団地下鉄(東京メトロ)職員の父と専業主婦の母の間に生まれ、下町の千住育ち。開成高校から東京大学法学部を経て、1983年に大蔵省(現財務省)に入省する。

佐々木氏は「国際的な金融の仕事をしたい」と考えていたが、配属されたのは銀行局長のシンクタンクといえる銀行局調査課だった。ここで金融自由化などの制度改革に携わる。

金融不況時の大蔵省の内情やクレディ・スイスとの丁々発止のやり取り、ライブドアや村上ファンドなどの捜査などを、佐々木氏の証言を織り込みながら明らかにしていく。有名な経済事件を監視官の視点から振り返る1冊だ。

ヒルズ族のような新興企業には厳しく、大手証券会社や東芝には甘かった行政捜査の体質も浮き彫りになる。これについて佐々木氏は「検察が固かった」と、東京地検が立件に消極的だったと証言している。経済界で言われている「政府は既存の大手は守り、新興の成長企業は叩く」は、必ずしも間違っていないようだ。

バブル崩壊からの経済事件の「まとめ」としても楽しめる。詳細ではないが仮想通貨(暗号資産)関連の事件についてもページを割いており、「金融改革の黒歴史」を学びたい人にはおすすめだ。(2021年10月発売)

M&A Online編集部

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