「日本のバイアウト・ファンド」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

「日本のバイアウト・ファンド」 野瀬義明著 中央経済社刊

投資ファンドが日本に登場してすでに20数年となる。今や、M&A市場の主要プレーヤーとして定着し、企業再編の場面を中心にその存在感は高まるばかりだ。

日本のバイアウト・ファンド

タイトルにあるバイアウト・ファンドとは機関投資家や個人投資家から集めた資金で企業を買収し、経営に関与して企業価値を高めた後に株式を売却し、資金を回収することを目的とする。直訳すると企業買収ファンド。経済ニュースでしばしば取り上げられる投資ファンドといえば、このバイアウト・ファンドを指す。

本書は2000年以降にバイアウト・ファンドが日本国内で行った買収を対象とし、買収が被買収企業(投資対象企業)、その株主、従業員、顧客・取引先などステークホルダー(利害関係者)にどのような影響を与えたのか、なぜ影響が及ぶのかについて、検証を試みた。

著者自身、本書において日本のバイアウト・ファンドに関して最初の詳細な実証結果を報告した、と意気込む。

バイアウト・ファンドは欧米で長い歴史を持つ。米国では1970年代、英国では1980年代から活動し、バイアウト投資がリターンを生むメカニズム、バイアウト・ファンドの役割や機能についての実証研究が活発に行われてきたが、日本ではそうしたアプローチが限られていたのが実情という。

本書は、日本におけるバイアウト投資の主要形態である「非上場化型」と「公開維持型」の2つのケースを分析。具体的には、アンダーバリュー解消(株価水準の訂正)機能、バリューアップ(株主価値の増大)機能、非上場化やオーナーチェンジを通じた資本構成の最適化機能などについてデータに基づき検証している。

MBO(経営陣による買収)などの形でいったん株式市場から退場した後、再上場に成功したケースも取り上げた。非上場時と再上場時の財務パフォーマンスがどのように変化したか、ファンドが得たリターンなどの推定値を示した。

学究的な内容でいささか小難しいが、ファンドが果たす機能を多面的に知るには格好の一冊といえる。著者は大和総研、大和SMBCキャピタル(現大和企業投資)などを経て、現在、同志社大学大学院ビジネス研究科准教授。(2022年3月発売)

文:M&A Online編集部

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