ソフトバンクグループ(SBG)とその傘下企業が国内の大型M&Aを牽引している。2019年も間もなく第3四半期(1~9月)を終えるが、買収金額の上位10傑中、ソフトバンク勢は2位、3位、6位にランクインする。その金額は3件を合わせて9900億円強と1兆円に迫る。資金力に勝るソフトバンク勢の面目を存分に発揮した格好だ。
今年のM&Aでこれまでのところ最大の“サプライズ”といえば、ヤフー(10月にZホールディングスに社名変更)が9月12日に発表したZOZOの買収。TOB(株式公開買い付け)を実施し、ZOZO株式の50.1%を取得し、子会社化する。取得金額は最大4007億円にのぼり、現時点で今年3番目。ヤフーは10月上旬にTOBを開始する予定。
ZOZO創業者で前社長の前沢友作氏は36.76%を保有する株式のうち、30.37%についてTOBに応じる。退任した前沢氏は計画中の宇宙旅行の準備などを本格化する。
ヤフーは10月に新たなオンラインショッピングモール「PayPayモール」を開設する予定。この目玉として国内最大級の衣料品通販サイトを運営するZOZOの出店を位置づけている。アマゾン、楽天を追撃する構えだ。
当のヤフーは今年6月に、ソフトバンクの子会社になったばかり。ソフトバンクは4565億円を投じて、ポータルサイト国内最大手、ヤフーへの出資比率を従来の12%強から44.64%に引き上げ、子会社化した。ITと金融を融合したフィンテックなど非通信分野の強化を狙いとする。
この結果、SBGを頂点に、通信子会社のソフトバンク、そのまた子会社のヤフーによる「親子孫」の同時上場という状態に。昨今の親子上場解消の動きに逆行する形で、論議の的にもなった。
さらに、ヤフーが大株主として約45%の株式を持つ文具通販大手のアスクルを含めれば、ひ孫にあたる上場会社も傘下に抱える。ヤフーがアスクルに社長解任を要求し、この夏、ひと騒動があったことは記憶に新しい。
話を戻すと、8月にはSBG傘下の米投資会社フォートレス・インベストメント・グループが不動産・ホテル業のユニゾホールディングスに対して完全子会社化を目的にTOBの実施を発表。買付価格は最大1368億円。
実は当時、ユニゾをめぐって旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)による敵対的TOBが進行中。フォートレスはHISを上回る買付価格を提示して対抗。ユニゾ経営陣が賛同する第三者による友好的TOBを手がけるホワイトナイト(白馬の騎士)として参戦した。ただ、ユニゾ株の市場価格が買付価格を上回り、TOB成立が微妙な情勢。
フォートレスは世界的な不動産ファンドを運営し、日本を含めて世界14カ国に拠点を置く。SBGが2017年、33億ドル(約3700億円)で同社の全株式を取得し、完全子会社した。
2019年に入り、日本企業によるM&Aで最大なのは豪ビール大手のカールトン&ユナイテッド・ブルワリーズ(CUB)を約1兆2000億円で買収するアサヒグループホールディングスの案件。
ソフトバンク勢は3件合わせてもアサヒの案件に届かないものの、上位10傑に複数ランクインするのは唯一で、M&A市場で存在感を見せつけている。10月から2019年も第4コーナー(~12月)に入る。後続の大型案件が飛び出すのかどうか、注目だ。
1 | アサヒグループホールディングス、豪ビール大手カールトン&ユナイテッド・ブルワリーズ(CUB)を買収 | 約1兆2000億円 |
2 | ソフトバンク、ポータルサイト国内最大手のヤフーを子会社化 | 4565億円 |
3 | ヤフー、衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOを子会社化 | 4007億円 |
4 | 東京センチュリー、米航空機リース大手Aviation Capital Groupを子会社化 | 約3213億円 |
5 |
日本ペイントホールディングス、豪州の塗料最大手デュラックスを子会社化 | 3005億円 |
6 |
米投資会社フォートレス・インベストメント・グループ、不動産・ホテル業のユニゾホールディングスをTOBで子会社化 | 1369億円 |
7 |
第一生命ホールディングス、米生保グレートウェストの既存契約を取得 | 約1300億円 |
8 |
DIC、ドイツ化学大手BASFの顔料事業を買収 | 約1162億円 |
9 |
ブリヂストン、車両管理サービスの蘭トムトムテレマティクスを子会社化 | 1138億円 |
10 |
東海カーボン、ドイツの炭素黒鉛製品メーカーCOBEXを子会社化 | 約1000億円 |
〃 | 日本電産、車載電装部品メーカーのオムロンオートモーティブエレクトロニクス(愛知県小牧市)を 子会社化 | 約1000億円 |
文:M&A Online編集部
これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。