大手インキメーカーのDIC<4631>が大きな一歩を踏み出した。同社は2020年末までにドイツの大手化学メーカーBASF社が保有する顔料事業にかかわる欧米などの18社を1162億円で買収する。顔料は水や油にまったく溶けない色付きの粉で、印刷インキや塗料、化粧品などに用いられる。

東証の適時開示情報を基に経営権の異動を伴うM&A案件(グループ内再編を除く)についてM&A Online編集部が集計したところ、2008年以降の12年間で同社による買収案件はこれが初めてだ。

同社がホームページで公表している2014年以降のニュースリリースでは毎年1件のM&Aがあるが、いずれも買収価格を公表しておらず、今回のBASF社関連がこの12年間で最大規模になるものと見られる。

インキ世界首位の巨人は今、何をしようとしているのだろうか。

BASF社の顔料事業の売上高は1170億円

DICの2019年12月期の業績は減収減益に陥る見通しだ。2019年8月8日に発表した2019年12月期の第2四半期決算によると、通期の売上高は7900億円で、前年度比1.9%の減収。通期の営業利益は430億円で、同11.1%の減益見通し。

DICの売上高推移、2019年12月期は見込み
DICの営業利益推移、2019年12月期は見込み

主力のインキ事業が需要縮小に伴って減収となったほか、自動車向けの出荷が低調に推移し、スマートフォンや半導体向け製品も出荷が落ち込んだ。これら製品は付加価値が高いため、減収幅よりも減益幅のほうが大きくなった。

同社は2019年2月に2019年から2021年までの3カ年の中期経営計画を策定し、この中で機能性顔料の拡大を目標の一つに掲げ、目標達成のためにM&Aなどの費用として2500億円の戦略投資枠を設けた。   

今回買収を決めたBASF社の顔料事業は高級顔料、エフェクト顔料(化粧品向け)、特殊無機顔料で高い技術力を持つ。一方、DICは有機顔料とエフェクト顔料(アルミ顔料)で高い技術力を持ち、両事業には重複が少なく製品補完性が極めて高いという。

BASF社の顔料事業の買収は、まさにこの経営計画に沿った行動であり、3カ年計画の初年度半ばの実施は素早い動きと言えそうだ。ただ、買収が成立するのは2020年末のため、業績に寄与するのは中期経営計画最終年度の2021年1年間のみとなる。

中期経営計画では2019年12月期は売上高8500億円、営業利益520億円を見込んでおり、第2四半期時点では初年度は売上高で600億円、営業利益で90億円不足することになる。

買収するBASF社の顔料事業の2018年12月期の売上高は1170億円のため、初年度に不足する600億円を補って余りある。さらに、2019年12月期の売上高見込み7900億円に1170億円を加えると9070億円。2021年12月期の目標である9500億円までの不足額は430億円という計算になる。

中期経営計画では機能性顔料のほかに、ジェットインキやセキュリティインキなどのスペシャリティインキの拡大と、環境対応製品のグローバル展開を目標に掲げており、これら分野で今後どのようなM&Aが飛び出すのかが、不足する430億円を埋めるポイントの一つとなりそう。

目標達成に向けた動きが加速しそうだ。

文:M&A Online編集部