日産自動車が20年前の悪夢再来の危機にある。2021年3月期の最終損益が6700億円の赤字となる見通しを発表した。前期もほぼ同額の巨額最終赤字(6712億円)を計上したが、21年3月期は新型コロナウイルス感染の影響が重なり、赤字幅がさらに拡大するおそれがある。最終赤字が2年連続となるのは「日産危機」の真っ只中だった1998年3月期から2020年3月期まで3年にわたって以来で、問題は深刻だ。
日産は仏ルノー、三菱自動車の3社で企業連合(アライアンス)を組むが、ここへきて“赤字連合”のありがたくないレッテルを張られている。
事実、日産の株式43%を持つ筆頭株主のルノーは2019年12月期決算で約170億円(1億4100万ユーロ)の最終赤字に転落。赤字はリーマンショック後の2009年12月期以来10年ぶり。ルノー自体の販売低迷で売上高を落としたこともあるが、傘下に置く日産の業績不振でルノーへの利益貢献ができなかったことが見逃せない。
三菱自動車は7月27日、自動車各社の先陣を切って2020年4~6月期業績を発表。この中で、21年3月期(通期)の最終損益が3600億円の赤字になると明らかにした。3年ぶりに最終赤字となった前期の257億円から、赤字幅が10倍以上拡大する。新型コロナ感染拡大で販売台数が減少しているのが主因だ。
三菱自動車は今後、希望退職者募集を実施するほか、四輪駆動車「パジェロ」を生産する岐阜県内の工場閉鎖などを予定している。
日産が28日発表した4~6月期業績は売上高が前年同期比50.5%減の1兆1742億円、最終赤字2856億円(前年同期は64億円の黒字)。販売台数は国内で前年同期比33.7%減、主力の米国では同49.5%減と半減した。
日産は併せて、これまで見送っていた21年3月期の通期見通しを発表した。売上高は前期比21%減の7兆8000億円に落ち込む。最終赤字は6700億円を想定する。ただ、コロナ感染再拡大による「第2波」の到来は前提にしていないため、状況次第で業績の下振れが避けられない。そうなれば、最終赤字は過去最大まで膨らむことが必至だ。
ルノーの事実上の傘下に入る引き金となった約20年前の日産危機。最終赤字は1998年3月期1400億円、1999年3月期277億円、リストラ関連費用がピークに達した2000年3月期は6843億円を計上した。2001年3月期には3000億円を超える最終黒字にV字回復を遂げ、日産復活ののろしを上げた。いわゆる、ゴーン改革にほかならない。
ところが、皮肉にも現下の日産危機もカルロス・ゴーン前会長に起因する。ゴーン時代に世界的に生産規模の拡大を追求した半面、新車投入がおろそかになり、販売低迷を招くことになったからだ。
日産は今後、生産能力を年間700万台体制から540万台体制に20%削減し、スペインやインドネシアでの生産を停止する。前期に6712億円と過去の経営危機時に匹敵する最終赤字に転落したのも過剰設備の減損損失計上などを迫られたためで、そもそもはコロナ感染の影響以前の負の遺産をどう解決するのかが先決なのだ。
日産と傘下の三菱自動車と合わせれば、21年3月期の最終赤字予想は両社で1兆300億円。仮に、一つの企業体と見立てれば、製造業として過去最大の最終赤字9657億円(17年3月期)を計上した東芝を上回るスケールだ。
ゴーン時代の最終盤とゴーン氏失脚後しばらくの間、ルノーと日産との経営統合が取りざたされたが、それどころではなく、現在は完全に封印状態。ルノーとの統合に元々否定的な日産にとっては望ましい展開だが、今度こそ自力での局面転回が一にも二にも求められている。
文:M&A Online編集部
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