介護最大手、ニチイ学館<9792>が打ち出したMBO(経営陣による買収)による非公開化の行方が混とんとしている。ニチイ学館株価は買付価格の1500円を上回る高値で推移し、現状のままではTOB(株式公開買い付け)への応募が見込めない。足元では7月9日に迫った買付期間の再延長が避けられないが、局面転回に向けては買付価格の引き上げを視野に入れざるをない情勢だ。

高値続き、TOB応募が困難な状況

ニチイ学館がMBOを実施して非公開化すると発表したのは5月8日。主力の介護事業を巡って人手不足が深刻化する中、非公開化によって成長分野への展開を含め、大胆な経営改革を進めるとしている。

森信介社長ら経営陣と組んで、米投資ファンドのベインキャピタルがTOBなどでニチイ学館の全株式の取得を目指しており、買収代金は約1000億円に上る。TOBで株式の約75%を取得し、残りの約25%は筆頭株主で創業家の資産管理会社「明和」から買い取る内容だ。

TOBは5月11日に始まり、買付価格は1株1500円(明和からの買取価格も同じ)。買付価格はTOB公表前日の終値1094円に37.11%のプレミアムを加えて設定した。

ところが、ニチイ学館株価は急上昇。TOB開始2日目の5月12日に1500円に乗せ、同26日に1600円、7月6日には1700円(いずれも終値)を超えた。この間、当初6月22日としていた買付期間は7月9日(44営業日)に延長したものの、株価の上昇は止まらなかった。

香港投資ファンド、1株2400円を主張

7日の終値は1636円。前日比68円安だが、買付価格をなお150円以上上回る。大半の株主にとってはTOBに応募するよりも、市場で売却した方が得な状況にあるのは言うまでもない。現在の株価水準が続けば、予定通りに買い付けることは困難だ。

となると、がぜん注目されるのは買付価格を引き上げるかどうか。仮に今回、買付期間を延長したとしても、あくまで“時間稼ぎ”に過ぎず、TOBによるMBOを成就させるのであれば、いずれかのタイミングで買付価格に手をつけざるを得ない。

かく乱要因は他にもある。香港の投資ファンド、リム・アドバイザーズはニチイ学館に対して、TOBの承認と応募推奨にかかわるガバナンス・プロセスに深刻な懸念があるとする書簡を送り、買付価格の公正性を問うとともに、1株2400円に引き上げることなどを求めている。

また「もの言う株主」として知られるシンガポール投資ファンドのエフィッシモキャピタルマネージメントは11%強を持つ大株主として名を連ねる。エフィッシモは旧村上ファンド系。MBOの行方が不透明な中、その動静も注目点の一つだ。

新経営体制から創業家長男が外れる

ニチイ学館のガバナンスは創業家を抜きにして語れないが、MBO後を見据え、6月末にスタートした新経営体制は業界の耳目を集めた。それもそのはず、次期後継とみられていた寺田大輔副社長が退任したのだ。

大輔氏は昨年9月死去した創業者で当時会長の寺田明彦氏の長男。代わって、二男の寺田剛常務が副社長に昇格したことで、剛氏への禅譲がほぼ確定した。大量保有報告書によると、大輔氏は約6.6%保有していたニチイ学館株式を6月中に売却し、会社との決別を図った形だ。

ニチイ学館は1968年に創業し、医療事務受託に乗り出した。1973年に保育総合学院(1975年にニチイ学館に社名変更)を設立し、1999年に東証2部に上場(2002年から東証1部)。介護と医療事務受託の2部門で業界トップに立つほか、ヘルスケア(家事代行など)、教育(Gabaマンツーマン英会話など)を手がける。

ニチイ学館の1000億円規模のMBOは日本企業のM&A金額として今年、上から数えて3番目のスケール。その意味でも成り行きに関心が集まっている。さて、事態は動くのか?

文:M&A Online編集部