タクシー業界では、「大日本帝国」が有名である。タクシーの大手4社、大和自動車交通<9082>、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車(kmグループ)の頭文字の「大」「日本」「帝」「国」をつなげた表現だ。その一方で、業界最大の保有台数を持つのは第一交通産業<9035>だ。1970年代からM&Aを進め、全国各地のタクシー会社を買収して成長し、2000年4月に 福岡証券取引所に上場した。2016年3月末時点でグループ全体の保有台数は業界首位の8214台を誇る。第一交通はなぜ業界トップに躍り出ることができたのか?過去のM&Aの歴史を振り返りながらM&A戦略を読み解く。
第一交通は、日本一の保有台数を誇るタクシー事業を核に、新規事業を展開する。創業当初はわずか5台のタクシーで事業をスタートしたが現在は、タクシー約8,000台を保有し、福岡県を拠点に全国34都道府県に営業網を持つ。第一交通といえば「タクシー事業」というイメージがあるが、そのほかに「バス事業」、「不動産分譲事業」、「不動産賃貸事業」、「金融事業」がある。
タクシー事業は、道路運送法による一般乗用旅客自動車運送事業の免許を得て34都道府県で営業を行っている。また、介護車両、寝台車両、ジャンボ、大型、ハイヤー等の車両も保有する。115社、200営業所、8,214台を配置し、随時不特定多数の顧客の求めに応じて輸送を行う。
バス事業は、沖縄県において那覇バスほか1社の子会社が貸切バス・路線バスの営業(認可台数620台)を行っているほか、福岡県、鹿児島県、山口県、島根県、広島県、大阪府、長野県及び北海道において、第一観光バス㈱ほか5社が貸切バス等の営業を行っている。
不動産分譲事業は、福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、佐賀県、大阪府及び東京都等において、都市型ファミリーマンションを中心とした企画、販売のほか、第一ホーム㈱において戸建住宅の販売を行っている。
不動産賃貸事業は福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、山口県、広島県、兵庫県、大阪府、三重県、神奈川県及び北海道等において、飲食ビルを中心とした賃貸ビ78棟その他住宅物件等を保有し、賃貸及びその管理業務を行っている。
金融事業は、福岡県、熊本県及び東京都を拠点に、第一ゼネラルサービスほか1社の子会社が、主として不動産担保ローン等の貸金業及び不動産再生事業を行っている。
田中亮一郎社長は、大学卒業後、テレビ朝日に入社。1994年に親族が高齢になり体調を崩したことがきっかけで後継者として義父が創業した第一交通産業に入社する。2001年、第一交通産業グループ社長に就任、創業者である黒土始が拡大したタクシー事業を中心に、事業の多角化を行う。現在57歳。
第一交通の大株主 | ||
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氏名または名称 | 所有株式数(千株) | 持ち株比率(%) |
第一マネージメント | 6,559 | 33.44 |
西日本シティ銀行 | 815 | 4.15 |
福岡銀行 | 674 | 3.43 |
黒土始 | 592 | 3.02 |
黒土優子 | 588 | 2.99 |
田中京子 | 588 | 2.99 |
福岡トヨペット | 539 | 2.74 |
北九州銀行 | 529 | 2.69 |
第一交通産業従業員持株会 | 315 | 1.60 |
第一生命保険 | 287 | 1.46 |
計 | 11,489 | 58.57 |
2016年9月末時点、四半期報告書を元に作成 |
創業家一族が株式を保有する第一マネージメントが33%ほどの持ち株比率で筆頭株主となっている。続いて西日本シティ銀行、福岡銀行、北九州銀行がそれぞれ約3~4%安定株主として入る。創業者である黒土始、その妹である黒土優子、その娘である田中京子がそれぞれ持ち分比率で3%ほど保有する。創業家一族で半数近い株式を取得していることから、強いオーナシップを持った経営ができる。