1年半にわたり対立状態が続いていた富士フイルムホールディングス(HD)による米ゼロックスの買収問題が決着した。富士フイルムHDは5日、ゼロックスの買収を断念したと発表した。代わってゼロックスとの合弁関係を解消し、ゼロックスが25%保有する富士ゼロックス(東京)を11月中に完全子会社化する。買収合意しながら、これをゼロックスが一方的に破棄して法廷闘争に発展していた。

富士フイルムは事務機で米ヒューレット・パッカードと並ぶ世界トップに立つ構想を描いたが、大型買収の頓挫で成長戦略の再構築を迫られる。もっとも、日本企業による海外M&Aの“誤算”は枚挙にいとまがない。富士フイルムの場合、合意段階でのケースだが、買収完了後に当初想定した業績が上がらず、巨額の減損処理など代償を強いられる事例は多発している。

東芝、米原発WHの7000億円減損で経営危機に

近年、M&Aの失敗で最も大きな損失を出したのは東芝。米原発子会社、ウェスティングハウス(WH)の経営悪化で2017年3月期に7000億円規模の減損損失を計上した。この結果、東芝は国内製造業として過去最大の最終赤字9656億円に転落し、約7500億円の債務超過に陥った。一連の不正会計問題が冷めやらぬ中、経営の屋台骨を揺るがす事態に発展。稼ぎ頭の半導体事業を売却して窮地を脱したことは記憶に新しい。

東芝が約7000億円を投じて鳴り物入りでWHを買収したのは2006年。東日本大震災を契機とした世界的な原発建設の見直しという逆風下、WHはもろくも経営破綻に追い込まれた。

東芝、米原発子会社WHの巨額損失で経営の屋台骨が揺いだ

東芝に次ぐのが、2015年に豪州の物流大手トール・ホールディングスを約6200億円で買収した日本郵政。トールの業績不振に伴い、17年3月期に約4000億円の減損処理を迫られ、07年の郵政民営化後初めての赤字に転落した。国内郵便事業が縮小に向かう中、国際物流に活路を見いだそうとしたが、いきなり目算が外れた格好で、高値づかみとの批判を浴びた。

第一三共、インドで高い“授業料”

第一三共も高い“授業料”を払った苦い経験を持つ。2008年、インド最大の後発医薬品会社ランバクシー・ラボラトリーズを約4800億円で買収。ところが、直後の09年3月期に約3500億円の減損損失を計上。インド国内の工場での品質管理問題が発覚し米国が輸入停止したことで業績が急降下したのだ。結局、15年にインドの同業大手に売却し、経営から手を引いた。

リコーは2018年3月期に減損損失が1800億円に上った。内訳は2008年に1600億円で買収した米国の大手事務機ディーラー、アイコンオフィスソリューションズに関連して1400億円、14年に買収した米ITサービス企業のマインドシフトに関連して400億円。なかでもアイコンの買収はリコーとして過去最大のM&Aだったが、オフィスのペーパーレス化の進展など市場環境の変化が立ちふさがった。

キリン、資生堂も1000億円規模を経験

1000億円規模の減損損失を出したのはキリンホールディングスと資生堂。

キリンは2011年、ブラジルのビール・飲料大手、スキンカリオールを約3000億円で傘下に収めたが、業績低迷が続き、15年12月期に約1100億円の減損損失を計上。キリンとして1949年の上場以来初の最終赤字(約560億円)に転落した。17年、オランダのハイネケンに約770億円で売却した。

資生堂は2010年にテレビショッピング主体に自然派化粧品を展開する米ベアエッセンシャルを約1800億円で買収した。だが、業績が想定を下回り、13年3月期と18年3月期で合わせて約950億円の減損処理を実施した。

資生堂も海外M&Aで苦杯をなめた…(東京・銀座)

LIXIL(リクシル)グループも思わぬ形で足元をすくわれた。2014年に約4000億円を投じてドイツの水栓金具大手、グローエを買収したが、その中国子会社の不正会計問題で16年3月期までの3年間で660億円の損失が発生。

LIXILにとっては現在、11年に約600億円で買収したイタリアの建材メーカー、ペルマスティリーザも頭痛の種。18年秋に、経営難の同社を中国企業に売却する方針を発表したが、米国当局が認めなかった。そのツケはLIXIL本体の決算を直撃し、19年3月期は520億円の最終赤字に転落した。

日本板硝子、6000億円買収後に6度の最終赤字

古くは2006年、日本板硝子が約6000億円を投じた英ピルキントン買収。売上高で2倍近い世界3位のガラス大手・ピルキントンを6位が傘下に収め、「大が小をのんだ」と話題を集めたM&A劇だった。しかし、経営は迷走に迷走を重ねた。買収後、2代続けて外国人社長を起用したが、いずれも2年ももたず辞任。業績も07年3月期から16年3月期までの10年間で6度の最終赤字に陥る惨状だった。これ以降は最終黒字が定着し、文字通り、雌伏の10年だった。

富士フイルムHDが米ゼロックスの買収合意を発表したのは2018年1月末。買収金額は6710億円と巨額ながら、現金の外部流出がない独自スキームを用いる点でも注目された。しかし、ゼロックスの大株主が「(ゼロックスを)1セントも支払わずに手に入れようにしている」などと痛烈に非難した。今回の合弁解消に伴い、ゼロックスは保有する富士ゼロックス株式の売却などで約2500億円を手にする。

◎日本企業の海外M&A:主な不調事例(2000年以降)

社名買収対象買収年概要
古河電気工業米ルーセント01年光ファイバー部門を2800億円で買収。04年3月期に評価損1000億円
日本板硝子 英ピルキントン 06年買収後、6度の最終赤字 
東芝 米WH17年3月期に7000億円規模の減損損失
第一三共 印ランバクシー    08年09年に減損損失3500億円。15年に売却
リコー 米アイコン 18年3月期にアイコン関連を中心に減損損失1800億円
資生堂 米ベアエッセンシャル10年合計で約950億円の減損損失
キリンHD伯スキンカリオ―ル11年15年12月期に減損損失約1100億円。17年に売却 
丸紅 米ガビロン 12年約2800億円で買収。15年3月期に500億円規模の減損損失
LIXILグループ 独グローエ 14年グローエの中国子会社で660億円の損失 
日本郵政 豪トール 15年17年3月期に減損損失4003億円
富士フイルムHD米ゼロックス18年1月末に6710億円で買収合意。19年11月に断念

※一部、社名を略称で表記

文:M&A Online編集部