なぜ今回の増資が東芝の債務超過を解消することになるのか?

 2017年11月19日、東芝は、同社取締役会において、第三者割当による6,000億円の新株式発行を決議した旨のニュースリリースを公表しました。これにより、東芝は2018年3月末の決算において債務超過を解消し、上場廃止も回避されることが報じられています。

 しかし、なぜ今回の増資が債務超過を解消することになるのかについて、各メディアを見渡してもあまり詳しく説明がなされていないように見受けられます。今回は、当該増資によって債務超過が解消されることとなるカラクリについて説明したいと思います。

上場廃止を防ぐために第三者割当増資に踏み切る

 まず、東芝の第179期第2四半期報告書(9ページ)によると、2017年4月に分社化した東芝メモリの全株式を(株)Pangeaに約2兆円で譲渡する契約が2017年9月28日に締結されています。そしてこれにより東芝は、当該東芝メモリの株式を売却した際に生じる売却益に課税され、2018年3月期の損益計算上、約3,400億円の法人税等を計上する見込みである旨を公表しています。

東芝_第179期第2四半期報告書
(東芝_第179期第2四半期報告書 P.9より)

 東芝はこのままいくと2018年3月末時点で約7,500億円の債務超過となることが見込まれています。日本取引所グループが定めている上場廃止基準によれば、債務超過の状態となった場合、1年以内に当該債務超過の状態を解消できない場合には上場廃止となるため、2018年3月末時点で東芝が債務超過の状態を解消できない場合、東芝は上場廃止を避けることができなくなってしまいます。

 これを防ぐための対抗策として、東芝は今回の第三者割当に踏み切りました。増資額6,000億円という金額は、東芝の時価総額である1.2兆円(記事執筆時点)の約半分にもあたるため、割当てを受けることができなかった投資家の株式には強烈な希薄化効果が生じ、株価が大きく下がることが懸念されます。それにも関わらず東芝がこの増資に踏み切るのは、この増資により東芝が完全に債務超過の状態を解消することができ、その方が上場廃止となるよりも東芝の将来にとってプラスであると考えられているからです。

増資のウラには税負担減少の恩恵が

 ここで、7,500億円の債務超過状態に6,000億円の増資なので、1,500億円は依然債務超過の状態のままではないか?と思われる方もいるかもしれません。しかし、この増資の裏には、税負担の減少という恩恵を享受するというもう一つの目的が存在します。

東芝の第2四半期報告書の「財務リスク」(P.7)には、以下の記載があります。

東芝_第179期第2四半期報告書 財務リスク
(東芝_第179期第2四半期報告書 P.7より)

 この記載について整理してみます。まず、前期末にあたる2017年3月期において、東芝は会計上以下の項目について損失計上を行いました。

ウェスチングハウスに対する債務保証損失引当金繰入額約6,600億円
ウェスチングハウスに対する債権に係る貸倒引当金繰入額約1,000億円
ウェスチングハウスが計上していたのれんの減損損失約6,400億円

 しかし、税務上はこの損失のうちほとんどについて、損金として算入することが否認されています。会計上は期間損益計算を重視しているために引当金の計上要件を充足した段階で繰入損失が計上される一方で、税務上は実際に損失が生じた、もしくは損失の生じる可能性がよっぽど高くない限り、損金算入をさせてくれません。

 損金算入させてくれないということは、上記の損失が発生していなかった場合の利益ベースで課税されてしまうということです。

損金算入の要件とは

 そのために、2017年3月期に1兆4000億円もの損失計上を行っているにも関わらず、2018年3月期の東芝メモリの売却益に約3,400億円が課税される見込みとなっているということです。この税負担を減らすためには、なんとかして上記①~③の損失を、税務上の損金として認めてもらわなければなりません。

 そこで東芝は、約6,000億円の増資によって得た資金を利用して、上記の①と②を全て弁済してしまおうと考えます。

 ウェスチングハウスの債権者に対して東芝が代位弁済を行った場合、ウェスチングハウスに対する求償権が発生します。つまり、本来ウェスチングハウスが返済すべき債務を肩代わりすることにより、東芝からウェスチングハウスに対する債権が新たに発生することになるのです。そして東芝が、この求償権をほとんど無償で第三者に譲渡することによって、ウェスチングハウスに対する債務保証損失を確定することができるのです。

 税務上は本来、第三者に無償もしくは著しく低額で債権等の財産を譲渡した場合等は寄附金として取り扱われるため、譲渡損失の一部についてしか損金に算入することが認められません。しかし、法人税法の基本通達9-4-1では、以下のような記載があります。

(子会社等を整理する場合の損失負担等)
9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。

 ここで、東芝が子会社であるウェスチングハウスのために保証債務を弁済し、それによって生まれた求償権を第三者にほとんど無償で譲渡することは、実質的に債権放棄にあたります。そして、その債権放棄をしなければ上場廃止を免れることが難しいことに鑑みれば、損失負担をすることについて社会通念上相当な理由があると考えられます。そのため、①と②の合計である約7,600億円は、税務上もほぼ間違いなく損金算入が認められると考えられます。

 会計上は既に2017年3月期に引当金計上を行っていることから、2018年3月期は当該①、②の弁済を行っても引当金の取り崩しとなるため、損失は生じません(為替影響を除く)。しかし、税務上は損金として認められるので、2018年3月期の課税所得を約7,600億円だけ減額することができます。

 東芝は実効税率を30.9%としていることから、約7,600億円に当該実行税率を乗じた約2,400億円が、冒頭で挙げたメモリ事業の売却益による3,400億円の税負担を減殺してくれるのです。この経緯について東芝は、11月19日に以下のようなプレスリリースを公表しています。

東芝プレスリリース「第三者割当による新株式発行に関するお知らせ」
(東芝プレスリリース「第三者割当による新株式発行に関するお知らせ」P.3より)

 シナリオ通りに進めば、東芝の2018年3月末のBS残高は、約900億円の資産超過となります。

 以上が、今回東芝が6,000億円の増資を行うことによって債務超過を回避できるロジックです。

 この手法がうまくいけば、東芝は債務超過の状態を解消することができることでしょう。ただし、これがうまくいくためには、以下の前提条件が満たされた場合のみであることに注意しなければなりません。

・第三者割当の引受者が、遅滞なく確実に東芝に約6,000億円の出資を行うこと
・ウェスタンデジタルとの東芝メモリ売却を巡る係争が和解に至ること
・計画通り、2018年3月末までに東芝メモリが売却されること
・求償権の無償譲渡または放棄による損失が、税務上損金として認められること

東芝の株価は値上がりするのか

 これらを勘案すると、まだ東芝が2018年3月期に債務超過の状態を解消することが確実とは言い切れません。実際に増資の引受先が資金を拠出しなかったために、結局破綻まで追いやられた事例も存在します。

 そのため、上場廃止を回避した際の値上がりを狙って、東芝の株式を積極的に購入するのは、少々リスクが高すぎる行為と言えるかもしれません。

文:M&A Online編集部