東芝の減損の謎(続き)
東芝は、最終赤字が1兆100億円になる見込みであると公表しました。買収した米原発事業の巨額損失を計上するに至った経緯をまとめてみました。
先日3月18日版の日本経済新聞に、『「のれん」最大の29兆円 買収先のブランド価値』の記事がありました。M&Aにより、上場企業の無形資産である「のれん」が急増しており、買収先の業績が悪化すれば、のれんに係る減損損失が多額の損失として顕在化するリスクとなることが懸念される、という趣旨の記事です。なぜ急増したかと言えば、日々のニュースで取り上げられているように、最近はM&Aが頻繁に行われ、M&A件数そのものが伸びており、かつソフトバンクの案件に代表される、海外の大型M&A案件が増えています。
もう1つのポイントは、この日経の記事にもありましたが、会計基準変更が多分に影響していることです。
ここで言う会計基準の変更は日本基準からIFRSへの変更であり、日本基準がのれんの償却が要求されのに対して、IFRSでは償却はさせず、減損会計だけが適用されます。その結果、毎期定期的に、巨額ののれん償却費を計上することはなく、その分利益を確保できるということが、M&Aを後押ししているという訳です。
海外M&Aをする企業は、すでに海外でビジネスを展開しているグローバル企業、あるいはこれからそれを目指していく会社が大半です。上場しているグローバル企業は、海外で資金調達の必要性、知名度の向上、また世界中のグループ企業の評価基準の統一を図るため、日本基準からIFRSへ会計基準を変更していますが、のれんの定期償却が不要であることも、期間損益へのインパクトの大きさからすると、かなり魅力的と考えられます。
のれんはなぜ発生するのでしょうか?のれんは一言で言うと、M&Aにより受入れる時価純資産と、それに要する取得価額の差額です。受入れる時価純資産は、簿価純資産ではなく、M&
ではなぜ、時価純資産よりも高い金額を支払ってでも、M&Aが行われるのでしょうか?その理由は、M&Aの目的にあります。なぜM&Aをするかと言えば、事業の拡大、異業種への新規参入、技術・商品ブランドの取得、人材の獲得等様々ですが、平たく言うと、経営資源を買うわけです。
そこで対価を支払って得た経営資源を自社のバランスシートに載せるわけですが、全ての経営資源を『認識』出来るわけではありません。例えば、「情報」という経営資源としては、顧客リストやデータベース、
また労働力や、人材の持つ個々の能力と言ったものも、M&Aの目的の一部である場合も少なからずありますが、そもそも人材はM&A後に辞めてしまう可能性もあり、そのタイミングも通常は分かりませんので、やはりバランスシートに載せることは難しいことになります。(但し、会計基準上は、分離して譲渡可能な無形資産については、時価で評価してバランスシートに計上しなくてはなりません)
それと、それぞれ別々に事業を行っていれば、生まれなかったシナジー効果が、M&Aにより同一のグループになることで発生することもあります。M&Aの際には、買い手は事前に独自の事業価値評価を行い、それに基づいて売り手と交渉して買取金額、すなわち取得対価を決定します。その事業価値評価の際に、M&A後のシナジー効果分を含んでいることがあり、
このようにM&Aの目的として取得した経営資源(含むシナジー効果)のうち、個別に評価してバランスシートに乗り切らなかったものが、
東芝は、最終赤字が1兆100億円になる見込みであると公表しました。買収した米原発事業の巨額損失を計上するに至った経緯をまとめてみました。