大企業で不祥事が相次いで発覚しているが、中小企業ではどうだろうか。M&Aを実行する際、事前に財務デュー・ディリジェンスを実施することで不正の抑止力となると専門家は指摘する。
M&Aにより企業などを買収する際、一般的には、買い主は売り主に対して、事前に財務デュー・ディリジェンス(Due Diligence。以下DD)を実施する。買い手は売り手からさまざまな情報を資料やインタビューなどにより入手しているが、会ったばかりの売り手が提示する情報が事実かどうか、十分に信頼できないからだ。そのため、財務DDでは、外部の第三者に依頼して調査する。
財務DDでは、売り主の決算書を入手し、その内容が妥当かを調査するほか、そこに反映されていない重要事項の有無なども検証する。それにより、最終的に買収しても良い会社かどうか、また、問題点がないかを確認する。M&Aは結婚に例えられることがあるが、財務DDは、いわば結婚前の身辺調査のようなものである。なおDDは財務に限らず、法務、労務、事業自体などに対して実施することもある。
財務DDは法律的に義務付けられている手続きではないため、財務DDを実施するかしないかは、あくまで買い主の判断による。しかし現行のM&A実務では、財務DDはほとんどの案件で実施されていると思われ、財務DDを行うことのメリットの大きさがうかがえる。そして、そこには、実際の調査時に新事実が発見されること以外のメリットもあると推察される。
仮に財務DDを行わないとしよう。買い主は、M&Aの判断材料として、売り主が提供する資料や口頭による説明に頼ることになる。不利な情報を語りたくないのは人間の心情だ。売り主は自社に有利な情報ばかりを語り、不利な情報は売り主に伝わりにくい。
だが、最終的に財務DDが実施されると分かれば、売り主は買い主に対して、できるだけ真実の情報を提供しなければならないという意識が働く。なぜなら、財務DD実施後に事前の説明と異なる内容があれば、売り主は買い主に対してうそをついたことになるからである。うそをつく人間を信用はできない。日常生活ではもちろん、ビジネスでもそれは同様だ。これから結婚しようという段階で相手がうそをついていたことが分かれば、破談になる可能性も高くなる。
公認会計士・税理士・行政書士
3Aアカウンティング合同会社 代表社員
1976年東京都江東区生まれ。99年3月早稲田大学商学部卒業。同年4月、青山監査法人 (PricewaterhouseCoopers)入社。その後、コンサルティング会社にて、中小企業を中心とする財務デューデリジェンス、事業評価などのM&A取引支援案件を多数経験。2010年独立開業後は、従来のM&A取引支援業務に加え、地元、東京都江東区において地域に密着した会計事務所として税務会計業務を行っている。密接なコミュニケーションを取りながら、シンプルでわかりやすい説明を行うことを信条とし、依頼者に喜ばれるサービスを心掛けている。