のれんの減損は目に見えないだけに厄介だ。建物の一部が損壊した場合などに価値が減少した部分を損失に計上するケースであれば感覚的にも理解しやすい。しかし、のれん自体が形のない資産であることに加え、減損の原因には収益性の低下など一見して判別できない状況が存在する。そこで、減損会計とはどのようなものなのかについて理解を深めたいと思う。

のれんの意味については、こちらの記事をどうぞ

経営の危機をもたらす「のれん」の減損

減損会計は固定資産に対して適用される処理である。そのため、多額となりがちな企業の設備投資などに対して適用されると損失金額も相当なものとなる。

減損の事実が認定された場合、四半期決算においても待ったなしで損失を計上することになる。このため、採算の芳しくない固定資産を多く抱えている企業にとっては時限爆弾のような様相を帯びる。

損失の計上はそのまま利益の減少を意味するため、経営数値へのインパクトは大きい。減損のせいで最終赤字になったり、債務超過に陥ったりする企業も出てくる。また、決算上は損失となるものの、税務上は損金とはならないことが多いため、経営状況の悪化にも拍車をかけることになる。

のれんの減損により巨額損失を計上した企業としては、やはり東芝<6502>を思い浮かべる人が多いだろう。実際、米原子力子会社ウェスティングハウスを含むエネルギーシステムソリューション部門では2015年度に165億円、2016年度に168億円と多額の減損損失を計上している。

また、原子力関連ほど注目を浴びていないが、POSシステムなどを展開するリテール&プリンティングソリューション部門でも2015年度に280億円にのぼるのれんの減損損失を計上した。

減損会計とはどのような処理か

このような減損会計は、2005年4月以降に開始する事業年度から適用が開始された。それまでの会計ルールでは、保守的に引当金などを計上するケースはあったものの、固定資産への投資額は取得原価のまま据え置かれるのが通常であった。

もちろん、建物などの償却資産は毎年の減価償却により規則的に費用化されるが、土地などの非償却資産では売却などがない限り、当初の取得原価が維持されたままだったのだ。

しかし、1990年代頃から会計の基本的な考え方に転機が訪れる。多くの会計基準において、過去の支出よりも将来のキャッシュフローを重視するという考え方が取り入れられたのだ。固定資産に関して言えば、過去の取得原価で評価するのではなく、固定資産を使用して得られる将来のキャッシュフローで評価しようという思考の転換である。

こうして生まれた減損会計の具体的な適用手順は上記の図のようになる。

〇減損会計の具体的な適用手順

減損会計の具体的な適用手順
筆者作成

この手順からはいくつかの特徴が読み取れる。まず、個々の固定資産について減損の検討を行うのではなく、「固定資産のグルーピング」から始めるという点だ。たとえば、多店舗展開している企業であれば店舗単位、複数の事業所を持つメーカーであれば本社、A工場、B工場、C営業所などの事業所単位でグループに分けるのだ。これは、上述したように将来キャッシュフローを生み出す単位に着目したグルーピングということもできる。

また、すべてのグループについて詳細な回収可能性を検討するのではなく、先に「減損の兆候の把握」を行う。減損の兆候がない資産グループについては詳細な検討は行わないという作業の省力化が見られる。

実際に回収可能性を検討する資産グループについては、将来キャッシュフローを算定し、これが資産の帳簿価額を下回っていないかどうかを判定することとなる。このような検討を通じて減損損失の要否を判定することを「減損損失の認識の判定」と呼んでいる。

会計の世界では、損失を計上するかどうかは「認識」の問題、その金額をいくらにするかは「測定」の問題と呼んで区別している。つまり、「減損損失の認識の判定」で損失計上することが決まれば、改めて詳細な計算方法で「減損損失の測定」を行うという段取りになる。

企業VS監査法人の論争のタネ

減損会計の適用は企業と監査法人の間でも論争になりやすい。これは将来の事業に関する見通しには、多分に見積りの要素が含まれるためである。

経営者による会計上の見積りが行われる分野は総じて論争が生じやすいと言われる。特にのれんの減損は金額も多額で、経営陣の主観が入りやすい将来の事業計画に依存していることから事態を複雑化する。

事業環境や業界に関する知識では経営陣に軍配が上がるため、監査法人側にとっても企業側の見積りが白か黒か明確に判断することは至難の技となる。また、議論が平行線をたどる場合には、監査法人として監査意見が出せるのかどうかという別の難題も待ち構える。

そこには、企業と監査法人の対立という構図のみならず、監査チームと審査部門との思惑の違い、公認会計士協会や金融庁、マスコミなどからの視線など様々な重圧があることは想像に難くない。

文:北川ワタル(公認会計士・税理士)/編集:M&A Online編集部