日本企業はROE(株主資本利益率)が低いとよく言われます。
生産性が低いというだけでなく、内部留保を手元資金として大量に蓄えている企業が多数あることもROEを下げる要因と言われています。
多額の内部留保があることは安定・安全経営のように思えますが、お金が遊んでいる状態になるとROEが下がってきます。
ROEが下がると株価にも影響があり、上場していると買収されるリスクも高まります。
稼いだお金をしっかり大切に蓄える経営は、堅実な生き方のお手本のようでありながら、実はリスクも抱え込んでいることは認識しなければいけません。
PBRという財務指標があります。PBRとは株価純資産倍率のことで、株価÷1株あたり株主資本で計算します。
実際に計算をしてみると、
株価総額=純資産ならPBRは1、
株価総額<純資産ならPBRは1未満、
株価総額>純資産ならPBRは1より大きくなります。
PBRが1を下回っているのは、実は会社として存在意義を問われる状態です。
会社は、設備や人を組み合わせて1人の人間や1つの設備ではできないことを行い、利益を上げていきます。
このため会社の価値は、個別の資産を積み上げた価値よりも大きくならなければいけません。さもなければ、解散して全てを売却して株主に返還したほうがマシということになります。
このため、PBRは理論的には1を下回らないはずです。
ところが実際には、PBRが1未満の会社はけっこうあります。
大量の内部留保があり、PBRが1未満の会社というのは、買収を仕掛ける側からすると大変に「お買い得」な案件です。
1.買収先が持っている資産を、個別に買うより安く買えることになる。
2.純資産より株価が低いため、のれんが殆ど出ないか、負ののれんになる。このため、買収後ののれんの減損リスクや償却負担を気にしなくてよい。負ののれんは収益計上されるため、一時的ではあるが業績を押し上げる。
3.PBR1未満の会社は手元資金を大量に持っていることが多く、これを安値で買うことで次の買収資金を入手できる。
このような点でPBR1未満の上場企業は買収されるリスクが高く、自社の財務戦略を見直す必要があると言えます。
負債というと日本人にとってはネガティブなイメージがありますが、財務的に資金調達以外の効果もあります。有名なのはレバレッジ効果です。つまり、借入をしても本業で金利を上回る利益を上げれば結果としてROEを上げることができます。
てこの原理と同じなのでレバレッジ効果といわれます。
財務分析では一般的に負債が大きすぎると安定性が無いと判断しますが、世の中にはそんな常識にかからない会社もあります。
世界最大のたばこメーカーであるフィリップモリスが実は債務超過であることをご存知でしょうか。
しかもフィリップモリスは、業績不調で債務超過になったのではなく、自社株買いで自ら債務超過の道を選んでおり、株価は好調です。
安定収入で負債の返済を賄えるため、自己資本比率はマイナスでも安定性に問題はないという見方がされているのでしょう。
PBRが1未満の会社からすると想像もつかない世界です。
また、負債を負うことによりガバナンスにも影響するといわれます。
すなわち、負債の返済という大きなプレッシャーで財務規律が高まり、資金繰りをしっかり考えるようになる、無駄なものは買わなくなる、といった効果があります。
株主からすれば、破綻さえしなければ負債はありがたい存在といえます。