「東芝事件総決算」会計と監査から解明する不正の実相

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本も紹介する。

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久保惠一著 「東芝事件総決算 会計と監査から解明する不正の実相」

東芝事件総決算

ここ数年で最も企業価値を毀損(きそん)した名門企業といえば、何と言っても東芝<6502>だろう。パソコンのバイセル取引や原子力事業の減損問題、監査法人との対立などの大問題が噴出し、日本を代表するものづくり企業のブランドは地に落ちた。続けざまに発覚した不祥事はセンセーショナルに報道されたが、東芝内部でどのようなことが起こっていたのかを客観的な視点から捉えた情報は少ない。

本書は外部の人間が容易に入手できる客観的データの財務諸表や適時開示情報などをもとに、一連の事件を検証した、いわば「調査報道」的な内容である。圧巻は米原子力事業会社のウェスチングハウス(WH)の「のれん」問題だ。

東芝は「高すぎる」と指摘されていたWH買収を正当化するために、多額の「のれん」を買収した自社ではなく買収されたWHの貸借対照表に計上するという、米国会計基準(SEC)で認められている「プッシュダウン会計」を利用する。

これが後にWH破綻によって約2600億円も減損を余儀なくされる原因となり、東芝は「虎の子」の半導体子会社を売却せざるを得なくなった。本書では公開情報をもとに、事件の経緯と東芝の経営判断の妥当性を明らかにしていく。

探偵小説のようなスリリングな展開でノンフィクションとしても楽しめると同時に、クロスボーダーM&Aで起こりがちな米国会計基準や国際会計基準(IFRS)を利用した「経営の実態隠し」のカラクリも理解できる秀逸なマニュアルでもある。

公認会計士でもある著者の久保惠一氏が「初歩的な簿記の知識があれば読めるように工夫した」と語っているように、平易で分かりやすい内容になっている。(日本経済新聞出版社発行、税別2400円)

文:M&A Online編集部

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