数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。
ビジネスがグローバル化していく中、西洋美術史が世界を舞台に活躍するビジネスエリートたちの間で共通言語であることに着目した本書。
欧米ではビジネスにおける社交トークに「美術」が話題に上がることが多々あるという。特にトップクラスのビジネスエリートたちの間でこそ、その傾向がどうやら強いようだ。
美術作品は「見るもの」ではなく、「読むもの」だと説く著者。どうしても、私たちは感覚的に美術作品を見てしまいがちだが、美術作品の背景にはその作品が制作された当時の歴史や価値観、文化が詰まっているのだという。それらを読み解いていこうというのだ。
例えば、宗教美術。西洋の価値観の土台を築いたキリスト教の存在は、グローバルにビジネスを展開したいのならば、避けて通れないものだろう。キリスト教の理解を深めるためにも宗教美術を知ることは役立つ。
特にカトリックとプロテスタントの対立が大きく背景にあった時代、美術はカトリックにとって「目で見る聖書」として彼らのプロパガンダを伝えるメディアとして使われ、より分かりやすく、見る者の感情に訴えるような劇的に描かれた宗教画が制作された。こうした背景を知ることで、同じように見えていた宗教画もまた違って見えてくる。
また、西洋の歴史を知る上でも美術史は大いに役立つ。なぜなら、美術・芸術は時の権力者らに庇護され、その栄枯盛衰とともに歩んできたといっても過言ではないからだ。欧米において、美術と経済は切っても切れない関係にあることがよくわかる。
日本で人気の印象派も、アメリカ経済の興隆が支えとなったという。印象派が登場した当時、まだまだ権威的な美術が主流であった本国フランスでは、絵具を混ぜずに色の配列で描く彼らの斬新なスタイルは受け入れられず、批判を浴びた。その一方で、アメリカではフランスからの新しい美術の形として人気に火がつき、アメリカ人富豪たちに支持される形で、いわば逆輸入的に本国フランスでもその地位を確立させることができたのだという。
そんな印象派たちに北斎らの浮世絵に代表される日本美術が影響を与えたことも忘れてはならない。日本での印象派人気は、何かしらそこにシンパシーを感じるからなのかもしれない。読了後は、何となくの美術鑑賞を卒業し、さらに自国の美術へも目を向けてみたいと思わせてくれる。
「本書で『世界』への扉を開いてほしい」と語る著者。本書は、ふだん美術に馴染みのないビジネスマンにとっては世界だけでなく、広く美術への扉も開くきっかけとなるだろう。
文:M&A Online編集部